第15話 対等な関係


 優美の声が杏奈にも聞こえていたらしくお礼を言う。良く状況が分かってない影は何のお礼なのかなと思っていると影を置いて今度は二人の会話になってしまう。蚊帳の外となった影は空を眺める事にする。


「でも、どうしてですか? 杏奈様……じゃなくて杏奈さんでいいと言うのは? 私はノーブルイヤン街の令嬢ではありますが立場では杏奈さんの方が上ですよね?」


「それは簡単。影様の近くにいると言う事はそれだけ偉大なのよ。優美さんも知ってるでしょ『古き英雄』を。つまりオルメス国において影様のお側にいる、ただそれだけで凄いことなの。だから様はいらない。それに今のオルメス国の守護者は総隊長と守護者統括以外は影様が全員任命されてる。その影様から認められたのであれば少なくとも私は対等だと判断する」


「そうだったんですか……」

「えぇ。つまり、私達守護者同様に影様が認めた。その事実がある時点で貴女はただの令嬢じゃなくなるのよ。傭兵としての優美さんで言うなら、傭兵の中では文句なしでオルメス国最大の権力を持った事になるわ」


 空をぼんやり眺める影。

 それを一瞬横目で見る優美。


「一体、影って何者なの……」

「先に言っておくけど、影様を怒らせたら誰にも止められないわ。今オルメス国が影様に自由を与えている、正確には干渉しない理由もそこにあるわ。元全権代理者である影様は私達ですら知らない秘匿案件を数多く知っているわ。だけど、影様なら大丈夫だと女王陛下が言われた。だから、今の影様は見ての通り自由な生活をされているわ。実は私達もそうなるように裏では動いていたりもするんだけどね」


「……はぁ。やっぱり影って、あぁ見えてとても凄いんですね」

 杏奈は当然と言った表情で頷く。

 その表情は自信に満ちていた。


「それより、優美さんは何で影様のパートナーになったの? 優美さんは誰かと何かをするタイプじゃなかった気がするけど?」

「私はずっと影に認めて貰う為だけに強くなったからです」


「んっ? 影様に?」


「はい。三年前、命を救って貰ったんです。だからこの身をもっていつか恩返しがしたかったんです。実は三年前、魔人にさらわれて生き残った一人と言えば杏奈さんであれば分かるかと思います。恩返しができるなら地位や名誉だって捨てられます。私が強くなった理由の一つです。一人でも戦える実力がないときっと影のパートナーにはなれないと思い死ぬ気で毎日努力しました。そして先日その夢が叶いました」


 影は空を眺めながらそんな背景があったのかと優美の話しをさり気なく聞いて思った。過去がどうであれ影は優美の実力を認めているので今更何を聞いてもそれが変わる事はない。


「そうだったのね。それで優美さんあんなに強かったのね」

 何処か優美に対してずっと警戒をしていた杏奈が微笑みながら優美の実力を認める。


「もしかして、見てたんですか?」


 優美の質問に杏奈が微笑みながら答える。

「見てたよ。総隊長の護衛でここに来てみたら、まさか魔法機関銃を馬鹿みたいに本気で使っている人がいたから慌てて私がここに止めに来たのよ」

「すみませんでした……」

 反省する優美に杏奈が何かを納得したように頷く。


 影は二人が面白そうな話しをしていたので空を眺めるのを止めて二人を見る。


「でも相手を間違ってないから大丈夫。影様なら問題なしだから」


 杏奈が影に嫌味で言ったのか、優美を慰める為に言ったのかが影には判断が付かなかったが二人が自然に仲良くなろうとしていたので一安心する。女王陛下の守護者は全員女性で構成されているが影の影響があってか皆立場をそこまで気にしない。力が全ての時代の中、この国ではかなり珍しいタイプである。ただ影に対しては皆がいつまで経っても気を使うので何故だろうと言うのが影の長年の疑問である。


「そう言ってもらえると嬉しいです」

 優美は申し訳なさそうに下げていた顔を上げ、杏奈の顔色を伺うように見る。


「なら良かった。ホント、そこまで気にしないでいいからね」

「ちなみに一つ教えて欲しい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「何が知りたいの?」


 優美が少し声を小さくして影に聞こえないように杏奈に質問をする。

「影って天然なんですか? それともバカなんですか?」


 優美の質問に先程まで微笑んでいた杏奈の顔が苦笑いに変わる。杏奈は優美から視線を一旦外す。客観的に見るのであれば杏奈が困っているように影からは見えた。

「やっぱり近くにいたら気づくよね……。知りたいの?」

「はい。杏奈さんの立場上言えない事でしたら……」

「……別にそうじゃないよ」

「なら教えて下さい」

「影様は基本的にマイペースな人で皆に対して優しい人だよ。だから天然じゃないけどたまに人が慌てていても影様はマイペースに物事を処理するから波長が合わない事がよくあるお方なの……」


 杏奈の言葉に優美は巨大隕石の一件を思い出す。


 あの時も周囲が慌てている中、影だけは巨大隕石を見て一人だけ呑気な事を言っていたなと思い出す。

「さっきの言葉を補足すると、影様はマイペースだけど、いざって言う時は物凄く頭がキレるし情報処理能力がとても凄いの。あぁ見えて、三年前まで私達を部下として動かしていた実力は確かな物よ。それは今の総隊長ですら足元に及ばないぐらいにね」


 杏奈の言葉に優美が驚いた顔をすると、

「だけど、どちらかと言うと普段は天然でおバカなのよね」

 と、杏奈が声を出し、ため息を吐く。


 影は杏奈が何かを口にしてため息を吐いていたので心配になったが、優美が苦笑いをしていたので、心配するほどの事でもないと判断して微笑みながら二人を見る。

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