第37話 影VS黒の剣士


 剣の中で魔力を圧縮し高密度魔力エネルギーに変換し放つ――聖剣エクスカリバー。その威力は絶大でノーブルイヤン街の城壁ですら一撃で破壊してしまう威力を持っていた。優莉と優美だけなら逃げる事が出来た……が今は後ろに沢山の味方部隊がいた。二人がどうするか迷う。魔力障壁を展開してもこれだけの攻撃を前にしては無意味だと悟る。


 だが――迫りくる攻撃に誰かが魔力障壁を展開した。

 それも攻撃に対して垂直にではなく、斜めにして。


「覚えておくといい。俺を怒らせて特攻の為に部隊を一ヶ所に集めることは愚策だと」


 …………。


 聖剣エクスカリバーの一撃を受け止めるのではなく魔力障壁をまるで発射台のように使い上空に逸らした者は赤紫色の腰まで伸びた髪を揺らしながら上空から優莉と優美達を護るように急降下し姿を見せる。

 まるで今度はこちらの番だと言っているかのように、上空から本日二度目の破壊光線銃がユロを中心として再編成された部隊上空から落ちる。


 味方部隊、優美、優莉、黒の剣士さえも唖然とする中。

 不敵な笑みと共に戦場に姿を見せた、オルメス国の最強は口にする。

「三年ぶりだな。悪いがお前の思い通りにはいかない」

「まさか……お前がここにいたとはな。通りで拠点の攻防において兵器性能ではこちらが優勢だったはずなのに負けたわけだ」

「まぁそうゆうことだ。それで、ユロを含めた部下全員が破壊光線銃によって死んだぞ? まだやるか?」

「フッ。油断して上空からの攻撃に対して何の対策もしていなかった奴ら等いてもいなくても一緒だ」

「そうか。お前上官失格だな」


 魔力で剣を生成し爆(は)ぜるように動く影。後れを取らず反応する黒の剣士。

 二本の剣が夜の戦場で綺麗な火花を散らし何度もぶつかり合う。


「今しかない。優美さん貴女を中心に複合魔力障壁を展開して私を護って。私が影様をサポートするわ」

「かしこまりました」


 優美がすぐに仲間部隊と協力して優莉を護る一つの魔力障壁を展開する。普通の魔力障壁の何倍も強度がある魔力障壁の内側から常に魔力を流し続けることで維持する。


 それを見た優莉が一度頷き、通信機のスピーカー機能をONにして歌う。

 オルメス国の総隊長にして『戦場の歌姫』がその真価を発揮する。

 声に魔力をのせ、攻撃力向上、防御力向上、速度向上、演算処理能力向上、情報処理能力の補助魔法を付与して歌う。更に、左手の薬指にはめられた魔晶の音指輪のもう一つの効果で魔力を声に乗せて影に渡す。外部から魔力を吸収する手間暇を優莉がカバーする。

 力強い歌声で「譲れない思い」が戦場に響く。


 さっきまで優莉と優美が二人がかりでも喰らい付くのが精一杯だった黒の剣士相手に影は一人で互角に戦っていた。身体能力が優莉の歌を通して向上こそされていたが常人の目から見た影はやはり強かった。


「いいか、よく聞け。お前の部下は理由がなんであれお前を信じて戦っていたんだ。そんな奴らに対して死を前提とした作戦を提示するな! 人も魔人も生きているんだ。それをあたかも道具のように扱うお前を俺は絶対に許さない!」


 影の怒りに呼応するかのように優莉の補助魔法が強くなる。

 そして、影の猛攻に黒の剣士が少しずつ後手に回り始める。

 相手の余裕をなくし、魔法の発動そのものを剣の技量一つで阻止する影。


「拠点を失った時点で負けだと気づいていながら退かない愚か者。何故だ? お前ほどの実力があればその事実に気付いていたはずだ!」


「知れたことを。それが魔人王様のご意思だからだ」


「敗者は死ねというのがか?」


「そうだ。弱き者に生きる資格はない」


 両者がぶつかり合いながら語る。


 三年前と同じく、影が闘い優莉がサポートの形に何かを思い出したかのように安堵する仲間部隊。


 影が神話級の魔法を使いユロを含めた敵部隊の残党を一掃したので、一見状況はオルメス国にとって完全に有利な状況となっていた。


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