第二章 影の決断

第22話 優美の意地悪

 あれから全てを優莉とその守護者に任せた影は安眠していた。信頼できる元部下がこの状況を何とかしてくれると信じていた。そんな期待も合って決戦当日予定となっている本日もいつもと変わらない遅めの起床をした。大きなアクビをして、大きな背伸びをする影。窓の方に視線を向ければ外の温度が一日を通して一番熱くなる時間帯に差し掛かった午後十四時過ぎだと窓近くにあるデジタル時計が教えてくれた。予めタイマーをセットしておいた部屋のエアコンが独特な機械音を鳴らし、室内を涼しい風で快適な状態にしてくれていた。そんな快適な部屋に影が幸せを感じていると、


コンコン


 と、扉をノックする音が聞こえる。


「どうぞ~」


 影が返事をすると勢いよく優美が扉を開けて部屋に入ってくる。

 寝起きに悪い声がすぐに聞こえて来る。

 それはまるでお母さんのような声と言葉だった。


「こら! 今が何月だと思ってるの?」

 部屋に優美の声が響く。


 影が目をゴシゴシしながら怒る優美を見る。

「四月」


 即答する影。

 それを冷たい視線で見る優美。

 二人の間に気まずい空気が生まれた。

 そして、優美の冷たい視線に影が無言になる。


 地球温暖化が進み四月末だと言うのに外は最高温度が三十度と一見とても熱いのだが、科学の発展により王都と街の中は最高温度が二十六度前後となる特殊なシールドがオルメス国全域の空を覆っている。なので、そこまで熱くはないはずなのだが影はマイペースなので自分がちょっとでも熱いと思ったらエアコンをすぐに入れて周りに合わせるのではなく、周りに合わせてもらう生活をしていた。


「すぐに消しなさい!」

「まぁまぁ、そう怒らないでよ。ちゃんと使った分の魔力と電気代はちゃんと王都に払ってるんだから」

「怒る怒らないじゃなくて四月にエアコンを使う家が何処にあるのよ!? 普通はもっと熱くなってからしか使わないわよ!」

 優美がため息を吐いて、影にお母さんみたいな事を言う。


 しかし、影は首を傾げながら

「あるよ」

 と、顔色一つ変えずに反論する。


 影としてはここで負けるわけにはいかなった。

 それだけ影の中ではエアコンは重宝されていた。

 エアコンのない生活なんてそんなの人間の生活じゃないぐらいに……。


「ちなみにそれは何処にあるの?」


 即答する影。

「ここ」

 影が家の床を指差しながら当たり前のように言う。


「はぁ~、ここまで来たら怒る気すらなくなる……」

 優美の視線が影の目の前にエアコンのリモコンにいく。


「……もういいから、とりあえずエアコン消しなさい」

「ならもうちょっとしたら消すね」

「もうちょっとっていつよ?」

「十七時ぐらいかな」


 影が優美の質問に微笑みながら答える。

 優美は日が沈み涼しくなるまで影がエアコンを消さないと見たのか、影の目の前にあるリモコンの元まで移動する。そのまま優美がエアコンを消す為にリモコンに手を伸ばすが影の手がそれを止める。


「優美?」

「何?」

「何しようとしてるの?」

「見て分からないの?」


 優美の言葉に影が表情を変えて悲しそうにする。

「いつまで私の手を握ってるの? 早く離して」


 ゴクリ

 つい息を飲み込んでしまう影。


 恐る恐る優美に確認する。

「……離したらリモコンから手を遠ざける?」


 優美がため息を吐いて、

「わかったわ。だから離してくれない?」


 優美の笑顔に影の顔にも笑顔が戻る。

 そして、影が優美の言葉を信じて疑わず、そのまま握っていた手を離す。その時、影が安心しきったタイミングを見計らったかのように優美がエアコンを消す為リモコンを手に取り即行動する。


「あぁ!」

 影が何かに慌てたように声を上げたが、エアコンが動く事を止めリモコンが優美の手から優美の服の中に消えていく。


「取りたかったら取っていいよ?」

 優美が影に笑顔で言うが、

「優美の意地悪」

 と、影が優美の目を見ながら口を尖らせる。

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