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俺だって生まれてこの方17年この町で過ごしてきたから、独りになれる場所をいくつか知っていた。


そのうちのひとつ。


駅裏にある小洒落たカフェに成瀬を連れ込んだ。


席について。


俺は何時も頼む物が決まってるから、メニューを開いて成瀬に差し出したら。


「俺金ないですし…」


「俺のオゴリだから遠慮すんな」


そう言っても中々選ばないから促したら、


「俺こういうとこ来たコトないし解らないです」


だから代わりに選んでくれと頼まれて。


「腹減ってるか?」


微かに目の前の成瀬が首を左右に振る。


「甘いモノは好きか?」


何故かはにかむようにほっぺた真っ赤にして。今度は縦にかすかに首を振るから。


「よしよし。じゃー俺がイチオシの奴を頼んでやるから」


スミマセーン、てマスターに向かって手を上げた。



程なくして。


俺の前にはドッピオのエスプレッソとハイクラウンのミルクチョコがセットされて。


成瀬の前にはホットココアと、ソーサーにはピンポン玉くらいの大きさはある白いマシュマロにこんがりきつね色の焼目がついたものがティースプーンと一緒に乗ってきた。


「初めはそのまま飲んでみろ。って言っても、絶対にひとくちの量は舐める程度にしろ」


「――」


成瀬は素直にカップに手を伸ばして。恐る恐る唇をつけたら。


「!!?」


目を見開いた後、騙したな、と言いたげに渋い顔してコッチを睨んだから。


「苦いだろー。それココアの癖して砂糖入ってないからな。まぁフツーはそのまま飲む奴はいない」


「砂糖を入れたらいいんですか」


テーブル備え付けの砂糖壷を引き寄せようとするから。


「待て待て。目の前のモノを良く見なさい。」


「コレは何ですか」


「マシュマロだよ。食ったことないのか?」


うん。と頷いた後で。


「こんなデッカイのとか、焼いてあるのとか見た事無い」


「あーそう言うこと。コレは…こうするんだよ」


対面から手を伸ばして。指先で摘んだマシュマロをココアのカップにイン。


「え?…ええ!?」


驚く成瀬を放って。ティースプーンでココアの上に浮かぶマシュマロをつつき始める。


「イイからつついて遊んでろ」


「――…」


気に入るとひとつのコトに集中する性質なんだろう。


成瀬はマシュマロが全部溶けきるまで優に3分はスプーン片手にカップの中とにらめっこしてたから。


俺は俺で勝手にクラウンチョコのパッケージ開けて、銀の包み紙を一欠片分だけ千切り取ったら、ミルクチョコレートをひょい、と口に含んだ。


そのままデミタスカップを摘んでひと口エスプレッソを流し込む。


「――」


甘すぎるミルクチョコレートと苦すぎる深煎り豆が出逢う時に起きる、


これぞマリアージュと呼ぶに相応しい組み合わせ。


舌の上から喉に流し込んだ後の余韻すら美味い。


なんて一人満足してたら。


「竹丘さん…?」


何時も此処に来る時は一人だから、連れがいること一瞬で忘れてた。


「全部溶けたか?」


スプーン握りしめてた手もそのままに、


うん(((。-_-。)なんて。素直な犬ころみたいに大きく頷くから。


よーしよしよし。って思わず手のひらにざらざらと不思議な感触のする成瀬の金髪ドレッドの頭を撫でてから。


「待たせたな。思う存分飲み干せ」


って言ったら。


スプーン置いて両手でカップを掴むと、ホントに一気に中身を飲み干した。


「美味いか?」


これで美味くないなんて言おうモノなら、二度とコイツには声掛けないって思ったけど。


「――…」


成瀬は凄く悲しそうな顔で俺の事見るから。


「どうした」


アウトだったかと内心がっかりしてたら。


「大事に飲めばよかった」


もうなくなっちゃった。なんて嬉しいことを言ってくれるから。


「あー。悪かったよ。俺が飲み干せって言ったからだな?スミマセーン!」


手を上げてマスターを再召喚。


「ココアお代わりくださーい」

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