21

俺を足蹴にしたヤツラのうちのひとりが、白いシャツを土埃に塗れさせて低く唸って悶絶しながら倒れてきたのが理解できるまでに意識がしっかり回復したところで。


目の前の奴は失神したのか動かなくなった。


「っつ…」


俺も大概色んな処を打撲してる状態だったから、痛みを堪えながら両肘で身体を支えて起き上がって状況を確認する。


緑色のタータンチェックのボトムを穿いた例の高校生たちの内5~6人は既にグラウンドに俯せや仰向けで倒れてる。


単車や原付も全て倒れてて。


首を巡らせたら。


見るからに話の通じ無さそうな、緩いのを超えてだらしない制服の着こなししてる高校生が7人、歪な円陣を描くようにして内側に向かって、1人だけ黒いボトムの制服着たヤツを取り囲んでる。



――奴等の真ん中で小野がひとり立ち尽くす小さな背中だった。



「…っ」


助けたいのに、声は出ないし身体を支えるだけで精一杯だ。


見れば高校生たちの内には何処から持ってきたのか、漫画の読み過ぎとしか思えない金属製の棒を持ってる奴まで居る。


あんなの躊躇わず振り回せるのは、人を殺しても構わないと思ってる危ない奴か、見かけ倒しで相手をビビらせるためのカモフラージュかの二択しかない。


カモフラであることを祈っていたのに。


そのバカは、7人がかりで取り囲んで、誰が最初に仕掛けるかじりじりと間合いを見計らっていた均衡状態を破って叫び声を上げると、


金属の棒を振り上げて背後から小野の頭めがけて思い切り振りおろした。


「―――――!!!!」


とても見ていられなくて目を閉じて身体を硬くした。


ぶん…っ!!


と此処まで聞こえる程の音が立つ程にそのバカの振りは早かったはずなのに。


俺が聞いたのは小野が殴られた鈍い音ではなくて、


ガツン!と明らかに空ぶって硬い地面に棒を叩きつけただけの音だったから。


うっすらと目を開けたら。


振り向きざまその凶行をすり抜けるように避けた小野が。


空ぶった相手が地面を叩いて屈んだ脇腹に、足の裏当てて思い切り横蹴りに蹴り飛ばしたのが見えた。


小さい身体で、自分よりもずっとガタイの良い高校生をいとも簡単に吹っ飛ばしてる。


『嘘だろ…』


有りえない距離を小野にケリ飛ばされた高校生は。土埃を立てて何メートルも引き擦るように転がってからやっと止まって。


暫く脇腹を押さえて悶絶した後、動かなくなった。


『おいおい、まさか死んでねぇよな…』


そうだとしても、凶器で先に頭に向かって殴り掛かった奴の方が悪いんだから、小野の側が正当防衛な事は俺だって解る。


小野が『自分からは絶対に手を出さない』なんて言ってたのを思い出す。


それは本当に強いから言える余裕なのか。


残るは6人。


今更ひとりずつでは敵わないと理解した奴等は、じりじりと網を狭めるように小野に近づいて一気に襲いかかるけど。


俺の中には何故かもう、助けに入るとか、人を呼ぶとかいう考えが失せていて。


単なるオーディエンスに成りきってた。

蹴り飛ばし投げ飛ばし突き飛ばし殴り飛ばして、小野は圧巻のパフォーマンスで残り6人の内4人を次々撃破して行った。


圧倒的人数不利な状況の中。


最強過ぎる主人公が華麗なアクションで群がる敵を次々倒していく痛快な映画をスクリーン目の前の座席で眺めてるような、非現実的な光景を見せられている。


仕留め損ねた最後のふたりが再び襲いかかってきた処を、小野はローリングソバットとバックハンドブローで一瞬の内にグラウンドの上に沈めた。


「――…」


あいつ等と対峙している間完全に無表情だった小野は。


首を巡らせて探してた俺と振り返って目が合った。


「たけにー゚゚・(≧д≦)・゚゚・!!!」


途端に幼い顔をぐしゃぐしゃにして駆け寄って来ようと踏み出したけど。


「――うわぁッヽ((◎д◎ ))!!!」


小野の奴は自分が完膚なきまで斃した奴の身体に躓いて、べしゃ、って凄い勢いでグラウンドに顔と腹を叩きつけるようにしてカッコ悪く転んだ。



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