20

7月頭。


自分の取ってるコマの前期テストが終われば9月半ばまで夏休み。


勉強が本位である筈の大学生がこんなんでイイのか?なんて思いながら、前期最後の登校が午後の一コマ目で終わって。


最寄駅に着く頃には小野の下校時間に近かったから。


電車を降りる間際に小野に宛ててショートメールで何時もの喫茶店に来るようにメッセージを残した。


改札を通って、駐輪場に向かう。


階段を降りて日差しの照りつけるアスファルトの上に出たら。


「暑ッ…――」


ひとつ暑さがジャンプアップした気がした。


その年の夏は所謂『猛暑』って奴で。今日も確か35度を余裕で超えるって言ってたから。


この肌が痛い感じからしても、そろそろその温度に達してるんじゃないかと思う。


「夏用のハット買うか…」


なんて呟きながら。腰を屈めてぼんやりと自転車のチェーンを外してた処に。


『――?』


不意に背後に気配を感じて振り返ると。


白い半袖ワイシャツの裾をアウトして、緑地のタータンチェックのボトムを足が短い癖に更にだらしなく腰で穿いてる高校生が5人。俺のコト囲んで見下ろしてた。


明らかにお行儀は良くなさそうな、所謂『底辺校』と呼ばれてる隣町の高校の制服だってコトは解ったから。


無視しても話しても因縁つけられる覚悟で俺も返した。


「――何か用か」


「アンタ『ナルセリョウ』のダチだよな?」


小野に名前が変わってもう3か月経つのにそれを知らないと言うコトは、現在の小野の知り合いではない事は解ったから。


「ナルセ?――知り合いには無い名前だ」


取り敢えず一度惚けて様子を見ようとしたら。一人に自転車のサドルを抑え込まれて、もうひとりには下から襟首を掴まれた。


「あァ!?テメェトボけんなよ!!」

「何度も此の辺り御前等が歩いてるの見てるんだよ!」


「寄ってたかって人のデート覗き見なんて淋しい奴等だな…。いや、よっぽどヒマなんだな?」


舌禍の性質を今正に此処で繰り出した自分を恨んだ。


首元を締め付ける力が増す。


足蹴にされたチャリがガシャっ、って。他人のチャリ諸共倒される。


「やめろ。――俺は逃げも隠れもしねぇから。場所移すぞ」


腕に覚えが無い訳じゃねぇけど…流石に年下でも5人相手はキツい。


タイミング見てチャリで全力疾走。なんて思ってたら。


「着いて来い」


コイツ等も初めからそのつもりだったようで。


――俺はどうやら、自ら罠に嵌ったらしい。


 連れて行かれたのは、コイツ等の高校の近くにある、最近廃校になった小学校の校庭で。


『マジか…』


陽炎がくゆるような暑さの中。単車3台、原付2台がバラバラと置かれて。その周りに10人近い同じ制服の奴等が単車に跨ったり、立ったり座ったりして群がってた。


その集団の中に連れて行かれた俺は。指を差されながら。


「先輩、コイツがこないだ話した」


「あー。誰だっけ、ナルセ?」


「違う違う!何時も一緒に歩いてるヤツ」


「何だ違うんだ。」


話し方がイチイチ耳障りな感じがイラッとするから何も言わずに居たら。


「まあ良いや。お兄さんさ、俺達ナルセ君にちょっと話があるから此処に呼んでくれない?」


「御前等さっきから『ナルセ』って言ってるけど、俺はそんな奴知らねえって言って…っ!!」


惚けた途端、突然後ろから背中を蹴られて前のめりに数歩大きくよろけて歩いたら、そのまま寄ってたかって伸し掛かられて、グラウンドに土埃諸共這い蹲った。


右から左から何人分か解らない数の手足が伸びてきて、


俯せになったまま頭を小突かれたり、足先でひっくり返されて仰向けになったところで顔殴られたり、


逃れようとまた腹這いに転がったところで背中を踏まれたり脇腹や肢を蹴られたり。


とにかく身体中至る所に次々と痛みを与えられた。


数分後には意識が朦朧としてきて。蹲るようにして抱えてたバッグを取り上げられて。


奴等がバッグの中から携帯を勝手に出してるトコロまでは見えたけど。


『――小野に架ける気か?』


アイツをひとりでこんな処に来させる訳にはいかないのに。


「やめ…ろ…」


奴等を止める声すらロクに上げられないまま、


手を伸ばした俺は、意識を失っていった。




どれくらいこんな状態で放置されていたのか。




どさ、と近くに何かが落ちてくる音と土埃の匂い。


「――…」


辛うじて薄く瞼を開く。

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