24
小野が甲斐甲斐しく世話してくれるのは有難いけど。
「ガキの着替えと変わんないな…」
って苦笑いするしかない俺に。
「――俺は楽しいよ?」
にこにこしながら小野が飛んでもねー発言するから。
「俺は着せ替え人形じゃねえぞ」
「アハハ。ゴメンね竹兄」
小野に手伝って貰って着替え終わったら。
色んな処がギシギシと痛むのを我慢しながら歩いて居間に行った。
部屋に入った途端。兄弟並んで凄い勢いでソファから立ち上がって呆気にとられる顔が見えた。
「たけにー∑(゚□゚;)!!!?」
シャケ(建)が顎が外れるんじゃないかってくらい口を開けて驚いてるし。
「――いや…全治2か月とか、また何の冗談言ってるのかと思ってました。センパイ済みませんでした」
シャケ兄(轟)には何故か頭下げて謝られるし。
「まー座れ。わざわざ来て貰って悪かったな」
って。促したら。俺のコト眺めながら、二人ともうろたえたように再びソファに腰を沈める。
「珍しくサトリ君から俺に連絡くれたんだよ?――ねー!」
って、シャケが俺の隣に座った小野に声を掛けたから。
「そうなのか?」
うん、と小野が頷く。
「初めてケータイ掛けた」
「もうさー。出入りなら俺にも声かけてくれたら良かったんだよ。ひとりでコーコーセイ30人潰すとかサトリ君凄いよね」
「待て待て。30人て何だ?」
あの場に居たバカ共は結局16人だったのに。何時の間に人数が増えてる?
「俺のコーコーでも、ムサコーの奴等が30人くらいが病院送りって噂が流れてるよ?」
まさか其れにたけにーとサトリ君が関わってると思わないじゃん。
「おいシャケ。その噂、文字通り話半分に聴いておけ。正確には16人だぞ」
「え!?そうなの?サトリ君!」
「――そう。16人」
なんて呆気なく頷く小野に、なぁんだー。ってがっかりしながらソファの上で弛緩するシャケに。
「建。16人だって相当じゃねぇか。俺だって凶器持ってる奴等16人に囲まれたら、かなりビビるぞ?」
なんて、今日も稽古着に袴姿のシャケ兄が腕を組んで唸る。
「でもさあ轟君。ホントに強いなら凶器なんか必要ないと俺は思うよ?」
弱いから棒やナイフに頼るんでしょ。
「――…」
「シャケは時々…本質を衝く事を言うよなぁ」
「それにしたって竹兄弱すぎだよ。痣だらけじゃん」
指摘のとおり。俺は頭から足先まで痣や傷が無い場所が無い。
「だろ?――もうさー。ダルメシアン柄かってくらい、体中色んなトコロに痣が出来てるぞ?」
頬や顎や、袖捲った腕見せたら。シャケ兄は自分が殴られたみたいにイタそうに顔を顰めてたけど。
「わー。ホントだ。青とか紫とか黄色とか…スゲー色々あるね」
俺も轟くんに稽古でコテンパンにヤラレタ後出来るし。痛いよねー!!
シャケの奴は面白がってソファから立ち上がるとテーブル越しに伸ばしてきた指先で腕の痣をつついてくるから。
「ヤメロよシャケ!!おいコイツ止めろよシャケ兄!」
「竹丘先輩こそ、その呼び方止めてくださいよ」
シャケ兄は全くソファから動こうとしない。
「はいはい、皆さん。社家君から戴いたお見舞いを切りましたから席に着いて下さい」
親父殿が切り分けたスイカを大きな皿に盛って運んできた。
「――おお!気が利くなシャケ兄弟、ありがとな」
「俺達から、って言うより。父さんが持って行けって」
『父さん』とは社家兄弟の父である六勝寺の住職のことだ。
「そうでしたか。どうか御師僧様に宜しくお伝えください」
ごゆっくり、と言い置いて親父殿は去って行った。
「じゃあ…冷えてるうちに」
頂きまーす。なんて4人でスイカに手を伸ばす。
「全治2か月って言ったら…たけにー夏休み中何にも出来ないの?」
早速口の周りをスイカの汁でビショビショにしたシャケに尋ねられて。
「そーなんだよ。遊びに行けねーしバイトにも出られねえから、今年の夏は小野のカテキョーする予定」
「そっかぁ。――サトリ君受験生だもんねぇ。何処受けるの?」
「――某都立」
「へぇ…凄いね!!」
「ホントはムサナンのつもりだったんだけど…竹兄に相談して某都立に変えた」
「ムサナンだって相当イイ学校なのにどうして?」
「そりゃあ俺が勉強見てやるんだから、もっと上を目指して当然だろ」
「自分の価値観を押し付けたがるのは竹丘センパイの悪い処ですよ。――小野君。この人の言うコトばっかり聴く必要はないんだぞ?」
なんてシャケ兄に指摘されて、少し不安になる俺の横で。
「でも俺竹兄が言ってるコトで『それは違う』って思った事無い」
迷いもなく小野が反論するの聴いたら。
『価値観を押し付ける』って言い方は強ち間違ってないんじゃないかと思わされた。
「――」
ココロに迷いが生じたのを見透かしたシャケ兄が俺のコト対面からじっと見てる。
「こっち見んなよシャケ兄」
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