23

結局俺は、全身至る所に打撲の痣が出来て。


左胸と右の背中側の肋骨の数本にヒビが入っていることが解った。


このクソ暑い時期にコルセットを嵌めさせられて家で安静2週間、全治までには2か月かかる怪我。


夏休みの殆どをこの痛みを抱えたまま過ごすなんて最悪だ。


傷害罪は親告罪じゃあないから、アイツ等ひとり残らず今回刑事告訴になってもおかしくないんだけど。


小野を訴えさせない牽制になると思ったから、俺は一番の被害者だけど今のトコロあいつ等に対して被害届は出さないコトにした。


「竹兄が被害届出さないの――俺のせいだよね?」


中学校の夏休みまで後10日を切った小野が、給食もなくなって昼過ぎには家に帰って来て、俺の部屋に顔を出しに来た時に徐に尋ねられた。


其処に考えが至るだけ、やっぱり小野はバカじゃないってコトは解るんだけど。


俺の渡したクッション抱えてラグの上に座った小野が、神妙に構えて俺が責めるのを待ちかまえてる所に、ここぞとばかりに、


『そうだお前のせいだ』


なんて俺が言おうものなら泣いて謝るのは目に見えてるから。


また上手い誤魔化し方を考えるしかなかった。


「は…?何でオマエのせいになるの?」


「だって手加減したけど結局アイツ等も何人か入院したし…。バイクも原チャリも壊したし…」


小野の云うとおり、まあ怪我人の数や被害金額から言うと。アイツ等の方が大きい。


「俺は関わるのめんどくせーから被害届出さないだけだ。それに言っただろ?御前は15人がかりで凶器持って襲われたから反撃しただけだ。有段者でもなきゃ棒きれひとつ持ってないオマエが幾ら暴れたって、過剰防衛にもならねーよ」


っていうのは。実は親父殿の知り合いの弁護士に確認しておいた。


「――…竹兄にも、お父さんにもまた迷惑かけちゃった…」


「心配するな。俺も親父殿も、何があっても動じないオオモノだからな。言葉は悪いけど、今回の事も『面白い』とは思っても迷惑とは思ってねぇよ」


「ありがとう…」


「ただなァ」


「――?」


俺がニヤニヤ笑って勿体ぶって留保するから。小野が不安そうに俺を見つめてくる。


「夏休み折角バイト入れたりバックパッカー旅行の計画してたのにずーっと家に居る羽目になったからスゲーヒマなんだよなぁ」


「ごめんなさい」


「反省してるか?」


うんうん、と大きく頷く小野に。


「じゃあ…。夏休み前に、ガッコに置いてある教科書とノートを全部持って帰って来ること」


「――何で?」


「俺が夏休み中マンツーマンで全教科夏期講習してやる。――御前もどーせ夏休み中家に居るんだろ。都合がいい」


「ええ!?」


「オマエの志望校はたった今、ムサナンから俺の行った久我山の某都立に変更されました」


って俺が大発表したら。


「俺に某都立なんてムリだよ!!」


「無理じゃない。だって俺がこの夏でオマエの偏差値を10上げてやるからな。言っただろ?俺人にモノ教えるの得意だって」


「…――」


小野が不審そうな眼差しを寄越してくるのを、


「某都立はなぁ。――イイ意味で、他人の事に無関心なヤツしか集まってないぞ?オマエみたいに干渉されるのがキライなヤツには丁度良いんじゃないか」


「――今からでも間に合う?」


「モノ教えるのが得意な俺と、理解が早いオマエが本気になれば、1か月もあれば余裕だ」


「じゃあ――…宜しくお願いします」


小野は少しまだ自分を信じ切れて無さそうな様子で頭を下げてる。


「親父殿にも志望校変えるって話しておけよ?」


なんて話をしてたら。気持ち悪いくらいいいタイミングで部屋のドアがノックされた。


『マサヒコ』


親父殿の声だ。


「入ってマース」


何時ものとおり返事をしたら。小野が俺を見ながら、『また言ってるよ』って顔で苦笑いしてる。


ドアが開かれて。親父殿が隙間から顔を覗かせた。


「サトリ君も此処にいたんだね?――マサヒコ、社家君が兄弟でお見舞いに来てくれたから、居間に通したけれどどうする?」


「ああ、動けねぇ訳じゃないから、俺が下に行くよ」


「解った。待っていて貰うから、支度が出来たら来なさい」


俺が寝巻みたいなTシャツにハーフパンツだったから、客に会う格好じゃないって思われたんだろうけど。


「着替えるの面倒だからコレにしたのにな…」


いてててて、って、痛みに顔しかめながらベッドから起き上がったら、小野が慌てて。


「大丈夫竹兄!?やっぱり――建君たち此処に来て貰おう?」


俺言ってくる。って椅子から立ち上がるから。


「いいから。取り敢えず着替えるの手伝ってくれ」


Tシャツも自分で脱ぐと時間がかかるから、何とか両手を上げて小野に引っ張って脱がせて貰う。


代わりに襟付きのシャツを肩に掛けて貰って。


ボタンを掛けて貰ってからシアサッカーのジャケットを羽織らせてもらう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る