25
「自意識過剰じゃねえの、センパイ。って言うかシャケ兄て呼ぶなよ」
対面なんだから見たくなくても目に入る、って言われて。
「じゃあ、そんな目で視姦すんな」
何か腹立って言ってやったら。
「アンタの事を視姦できる要素が何ひとつない。見られたく無きゃスイカ置いて何処か行け」
カワイくも女子でもないアンタの何処見て興奮しろって言うんですか。
「またまたー。俺のコト大好きな癖に隠すなよ」
「先輩実は目も頭も悪いんですか」
悪態の応酬を始めた俺とシャケ兄に。
「ねー。何ケンカしてんの?――仲良くしようよ二人とも」
相変わらず口の周りびしょびしょのままむしゃむしゃ次々スイカを喰い続けるシャケと。
「――」
小野は俺達の話を黙って聞きながら口にスイカを運んでる。
「違うぞシャケ。仲良しだから悪口言い合えるんだ。――なぁシャケ兄」
「嘘吐け。先輩と俺は最悪の相性だ。――俺は仕方なく付き合いで来ただけだ」
それから今度シャケ兄って呼んだら返事しねえぞ。
「うーわー。出たよ心配性のお兄ちゃん。麗しいシャケ家の兄弟愛!」
愛の押し売りだな!?って冷やかしたら。
「先輩は俺達が羨ましいんだろ?」
シャケ兄はヒートアップしてくると俺を先輩とも思わずグイグイと失礼な言動を放り込んでくる。
「アンタこそ今まで人に関わって面倒に巻き込まれるのが嫌いな人間だった癖に、小野君には随分と執着してるじゃないか」
いずれ六勝寺を継いで住職になるようなヤツだから、17歳でも既に小悟くらいは何度もしてるんじゃないかと思う。
「当たり前だろ。名前違っても小野は俺の弟だ。他人の御前等より執着するし干渉するし愛情を押し売ってやる」
開き直りとも取れる発言する俺に。
「――俺の家もセンパイの家も兄弟仲良くて良かった、ってコトで手打ちだな」
丁度皿の上に乗っかってたスイカが全部無くなったから。
「帰るぞ建」
立ち上がるシャケ兄に。
「折角久々にリョーく…じゃなくてサトリ君に会ったから俺まだ居たいよ!」
「勝手にしろ。――じゃあセンパイ。お大事に」
そのまま出て行くシャケ兄を追いかけようとする小野を引き留めた。
「俺が見送るから。御前はシャケの相手してろ」
「…解った」
上り框に立って下駄の鼻緒に足を引っかけて出て行こうとしてたシャケ兄に。
「社家。今日はわざわざ悪かったな」
「――言っただろ。タダの建の子守りだよ」
「――小野は」
振り向かないシャケ兄の背中に構わず話しかける。
「『周りの人間と違う』って思われるのを凄く怖がってる」
突然告白する俺に。下駄を鳴らしてこっちに振り返ったシャケ兄は。
「小野君が金髪ドレッドだったり、チャイム鳴らないうちに学校飛び出してたり、名前が何時の間にか変わったり、ひとりで16人の年上の人間病院送りって。どう見たって普通とは違うだろ」
「――そうだな。小野はとにかく問題児だって言われて、今まで何度も里親や名前が変わった挙句俺ん家に来たけど」
これ以上此処で話してたら何時あいつ等に聴かれるか解らないから、俺も靴履いて、玄関の引き戸を開いて外に出た。
社家も黙ってからころと下駄の音をさせて俺についてくる。
「なんて言うのかな。小野は異端だって周りに指摘される前に、自分から『俺は普通じゃない』って宣言して喰らうダメージ軽減してるように見えるからさ」
陽炎がゆらめく境内の石畳の上を今度はざくざくと音を立てて並んで二人で歩く。
「俺は小野が『普通じゃない』コトは別に悪いコトじゃないって受け入れられるように。環境を整えてやろうと思ってるだけなんだ」
シャケを巻き込んだのは悪かったと思ってるけど。ホントに良い奴だし、確実に小野にいい影響与えてくれてるから。
「だから頼む。時々でイイから小野の処に呼ぶの赦してやってくれ」
隣で道着の腕組みながら聴いてたシャケ兄は。
神門超えて階段の最上段に来たところで立ち止まって俺の方を見た。
「俺今初めて、センパイが尊敬できる人間だって思えたよ。――いいぞ。夏休みの内毎日でも建を呼んでやってくれ」
「いやぁ…。折角だけど…毎日はイイかな」
「なんでだよ」
「シャケはオマエと違って――賑やか過ぎるだろ」
「あー。暑い時期には更に鬱陶しいな」
シャケ兄は苦笑いした。
シャケ兄を階段で見送った後家に戻ると。
「ねー竹兄。俺も夏休み毎日此処に来てもいい?」
シャケも小野に負けず劣らず、男とも思えない可愛い顔でにこにこしながら見上げてくる。
って言うかさっきシャケ兄に『建は毎日会うと鬱陶しい』って話をしてたの聴かれてたのかってくらいタイムリーだ。
「――小野は受験生だって言っただろ?そんな毎日オマエと遊んでるヒマなんかないの。土日なら息抜きで呼んでやるから」
って断ったにもかかわらず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます