26
「遊ぶだけじゃないよ?俺も竹兄にべんきょー教わりたい。夏休みの宿題此処でやる」
「何言ってんだ。シャケはシャケ兄に見て貰えば良いだろ?」
「どうせ轟君『ヤダ』って言って全然教えてくれないもん。去年俺受験勉強ひとりでやったんだからね?」
いいなーサトリ君。俺もおにーちゃんに見て貰いたい。ってゴネ始める。
「たけにー。呼んであげようよ」
小野が気の毒そうに口添えするから。もう既に多数決の結果は出たじゃねーか。って思ったけど。
「オマエもコーコーセイなんだから。折角の夏休み、不純異性交遊でも、寺の修行でも、バイトでも、此処に来なくたって出来る事が沢山あるだろ?小野はこの夏休みの40日が勝負なんだから邪魔されたら困るんだよ。オマエは毎日来るなら、精々午前中2時間くらいで帰れ」
全く来ないのは小野の為を想ったら息抜きできなくなるから困るけど、だからと言って毎日ずっと居座られるのはもっと困る。
ゼロか100かの答えしか出せなくて『丁度イイ』が良く解ってない奴だろうと思ってたらシャケは意外にも。
「俺だって一日中此処に居る訳じゃないよ?」
腕を組んで偉そうに少し反り返ったシャケは。
「来られるのは8月に入ってから平日の朝稽古上がりに…9時頃から2時間くらいかな?」
「8月から?」
「うん、俺二段の昇段審査が8月の第1日曜日にあるし。それまでは俺おべんきょーそっちのけで稽古だから」
初めて轟君に段位が追いつくんだ。って嬉しそうに言う建を見れば。所謂お兄ちゃん子なんだと良く解る。
「やっぱりオマエ…シャケ兄に勉強教われよ」
「轟君は俺のコト稽古以外は相手にしてくれないもん」
「イヤイヤ…そんなコトないぞ?シャケ兄は――何時もオマエの事視てないようでちゃんと見てるぞ?」
こんなコト言ったってバレたら後でシャケ兄に肘の一つくらい関節極められて赦しを請わされるだろうけど、此処はちゃんと伝えておいてやらないと兄弟ともに気の毒だ。
「だって最近轟君良く書院に籠ってるし。座禅堂にも籠ってるし。俺のコト構ってるヒマなんかないよ」
「何だ何だ社家轟17歳。悶々としちゃうお年頃なのか?」
「――うーん。って言うか。多分、進路のコトで悩んでるんじゃないかなぁ」
「アイツ寺継ぐんだろ?」
「じゃあ竹兄は、神社をついで宮司さんになるの?」
「継がない。――俺が神職なんて成ったら罰が当たる」
「竹兄武蔵八幡継がないんだ…」
今更驚いてる小野に。
「継ぐなら神職の資格が取れる大学選ぶし。俺は将来やりたいコトがあるって言ったろ?親父殿にも『継げ』って言われてないし」
「そーいうのはさー。宮司さまとしては面と向かって言えないんじゃないの?」
うちの父ちゃんも、轟君や俺に『寺継いでくれ』って一言も言った事ないもん。なんてシャケが呆れたように言う。
「ほら、オマエだって継ぐ気は無いんだろ?」
今時家業を継がないなんて珍しくもなんともない。って
「んーん。俺は轟君が六勝寺継ぐなら、他の御寺探さなきゃいけないなぁ」
「え!?建君お坊さんになるの?」
「うん。小さいころから決めてたから」
「オマエが御師僧サマか…。スゲーな」
「竹兄は宮司さまにならないなら何になるの?」
小野とシャケと可愛い顔した奴等に並んでキラキラの視線で見詰められたら、追い詰められた気分になって思わず白状した。
「――動物学と古代生物学のゼミに入ったけど。まあ将来は…UMAの研究家になろうと思ってる」
「ゆーま?」
解らないと首を傾げる二人に、
「UNIDENTIFIED MYSTERIOUS ANIMAL。未確認生物のコトだよ」
「ネッシーとか、ツチノコとか?」
「まあ、有名どころで言うとそうだな」
「スゲー。カッコい~。捕まえたら俺も見せてね!」
「ああ、世界の裏側から呼んでやるから待ってろ」
実はそんな研究がやりたいなんて言ったらバカにされるのは目に見えてるから。
とにかく動物学や海洋生物学を真面目に学んで誰にも文句言わせなくなった処で専門はそっちに転向してやろうと考えてた。
「やったー!!俺が住職になるのが先か竹兄がネッシー捕まえるのが先か競争だね」
なんてシャケと二人で盛り上がってたら。
「――…」
小野が眉毛を下げて少し淋しそうにこっちを見るから。
「どーした小野」
「俺まだ…全然何がしたいのか自分で解んないから…二人が羨ましい」
「俺やシャケみたいにもう将来のこと決めてる方が珍しい方だぞ?それにな…。――なりたいモノに成れるヤツの方が、どうしたって少ないんだ」
なんて。俺が励ますどころかトドメを刺すようなコトを言うから、流石にシャケが。
「たけにー全然フォローに成ってないよ?」
「最後まで聴けって。だから、成りたいモノが解らないなら。『何にでもなれる』準備をしておけって言ってるの」
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