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「轟君迎えに来てくれたの!?」
「どーせ竹丘センパイがお前にろくでもねー事やらせようとしてるんだろ。オマエを迎えに来たんじゃなくて、邪悪な陰謀を阻止しに来ただけだ」
俺より10センチ以上視線が低い処にあるけど、合気道の有段者に腕組まれたままそんなコト言われたら、武道なんか齧った事無い俺は、腰が引けるしかない。
年下相手に両手を合わせて懇願する。
「頼むよシャケ兄。どうしても今コイツのミラクルパワーが必要なんだよ」
「奇跡を頼らないと達成できない目標なんか…俺の中では目標とは言わない。センパイ自分で何とかしろよ」
それとその『シャケにい』って即刻やめろ。アンタの方が年上だしバカにされてるようにしか聞こえない。
次言ったら絞めて落とすからな。
「おいおい。何ですか。有段者に脅されてるんですか、俺は」
「そう聞こえたなら上々だ――。帰るぞ、建」
学ランの腕を掴まれたシャケが兄貴に引きずるように連れて行かれるのを見送るしかないけれど。
「竹にい!!心配しなくてイイよ!明日も俺行ってみるから!!」
振り返って笑いながらそんなコトわざわざ言い置いてくれるシャケに。
「アリガトなシャケー!頼んだぞ~!」
手を振って返すと。隣の轟が空いてる手でシャケの頭をひっぱたくのが見えた。
「おーおー。お兄ちゃん怖いね~」
いや…違う。怖いんじゃなくて、アイツは『過保護』って奴だと今なら解る。
一人っ子な俺は。
今までもシャケやシャケ兄のような、ガキの時分から知ってる年下の友人を色々弄って遊んできたけれど。
何故だろう、成瀬に対してはそういう…弄るというのとはまた、違う接し方をしている気がする。
今もこのままとりあえず屋敷に帰ったら、部屋に戻る前に、成瀬の部屋をノックしようなんて思ってる自分に驚く。
俺も何時の間にか。『過保護』って奴に成りかけてるんだろうか。
俺も兄弟が欲しいんだろうか。
「――…」
「――マサヒコ」
薄暗い中石灯籠の火の回りだけが仄かに明るい境内で呼びかけられて。
「――っ!!!?」
自分でもこんなに吃驚することか、ってくらい凄い勢いで振り返ると。
「どうした、そんなに驚いて」
仕事以外の時は何時も狩衣を脱いで白い単衣に袴姿が定番の親父殿だった。
「ああ、何でもない。なあ親父殿――成瀬は?」
「台所で夕飯の配膳の手伝いをしているよ。御前も戻りなさい」
「解った…」
晩飯時も特に気まずいとか言うコトは無くて、何時も通り俺と親父殿と母ちゃんと成瀬の4人で食卓を囲んだ。
喰い終わったら、後片付けもきちんと手伝うアイツを置いて俺は部屋に戻って机で赤本開いてたけど。
下から戻ってきた成瀬の足音がドア越しに聞こえた途端。
慌てて蛍光ペンと赤本放り出して、飛びつくようにしながらドアを開けた。
「成瀬!」
ドアノブに手を掛けたままこっち向いて一瞬固まった成瀬は。
「――…」
直ぐにフリーズから解放されて、掴んだドアノブ捻って勢いよく開けた。
「おい、シカトすんな。来いよ、話がある」
「俺は無い」
部屋に入ろうとする相手を引き摺り出すのは面倒だから。
「じゃあ俺が行く」
代わりに成瀬の部屋に俺が入った。
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