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翌日。早速その効果が現れた。
「――あ!!たけにぃが帰ってきたよ!リョー君!!」
中間テスト最終日だったけど、今日は高校の図書館で勉強してから神社に帰って来たら。
「たけにぃ~!!」
日が落ちる間際で薄暗くなってきた境内で、真砂土敷きの広いスペースにしゃがんでた二人の内の一人が、こっちに向かって大きく手を振ってきて立ち上がった。
「おー!」
手を振り返しながら近づいたら、しゃがんだままだったもうひとりの奴は薄暗くても派手なブロンドのドレッドヘアのお蔭で成瀬だと解った。
大きなM字開脚よろしくヤンキー座りのまま、不機嫌そうにこっちを斜に見上げてくるから。
所謂不良らしく振舞ってるのを見て、可愛い顔には似合わねェなあって思わず笑った。
「おー、良かったなー成瀬。シャケに遊んでもらってるのか~」
「――…」
返事はない、どうやら相当お冠のようだ。
「ねーたけにぃ!リョー君って外人なの!?会ってからひとことも喋んないんだけど!」
この空気の読めない男『
「そーなんだよシャケ…生まれた時からこんな髪で…カワイソウな奴だろ?日本語解んないからさ」
生まれた時から編み込みドレッドなんて居る訳ねえだろ!!ってツッコんでくるどころか。そっか、なんて。つやつやの茶色のショートレイヤーの髪をふさふさと揺らしながら頷いだシャケは。
「あ!そうなんだ!?リョー君!じゃあ、もしかして此れなら解るかな」
そう言うと、今度は大真面目な顔で。
右手の人さし指と中指を重ねて、額の中央部分に当てた後。
両手の人さし指を立てて胸の前で向かい合わせたら、両方の指先を曲げて。人差指同士で挨拶をさせた。
これは『こんにちは』を意味する手話だ。
手話も所謂口で話す言語と同じで、世界や同じ国でも地域で違うのだから。
日本語ベースの手話で話しかけても『外国人』に通用するはずがない。
「――あれ!?通じないかな?こんにち、わー!!」
何度も挨拶を繰り返してる。
成瀬はそんなシャケを無視して眉を寄せたまま立ち上がった。
「竹丘さん」
「あれ!?たけにー!!――リョー君が喋った!!」
クララが立った並の衝撃を受けてるシャケを余所に。
「何コイツ…五月蝿いんだけど」
「えッ…!?五月蝿い!?俺五月蝿いの!?」
俺の言うコト全部解ってるのリョー君!
「あー、シャケ。悪いけどもうちょっとボリューム下げて喋ってくれ。俺もテンションに着いていけない。それに一応…ウチの神様の家の前だからな」
しー。
人差指を立てて口元を差したら。
俺の真似をして『しーっ』と何故か唇を尖らせながら人差指を当てたシャケは。
「解った…。けどさ。何で俺…リョー君に口きいてもらえないんだろ…」
友達になってやってくれ、ってたけにーが言うから三年の教室からわざわざリョー君の教室まで行ったのに…。
――と、やっぱり爆弾を投下してくれた。
「――シャケおまえ…それは絶対に内緒だって言っておいただろ?」
宇宙人なコイツに口止めなんて技を仕込める筈が無かったんだと、俺の方がもっと慎重に策を練るべきだったと後悔を今更しても遅い。
「――俺は別に、そんな事頼んでない」
表情を硬くした成瀬は、ひとこと言い捨てると。下に置いてたぺったんこの鞄を拾って、神社の後ろの屋敷に独りで帰って行った。
「あ…リョー君!!ばいばーい!!また明日ね~!!」
流石シャケ。全くこの場の雰囲気を読まずに成瀬に声を掛けられるトコロが凄い。
これなら懲りずに明日も成瀬の処に行ってくれるに違いない。と安心する。
振り返りもしない成瀬の背中を二人で見送って。
「あー。悪かったなシャケ。送ってやるから帰ろうか」
「別に怒ってないよ?俺も久々に神社の中で遊んで懐かしかったし」
って、山を下りるのに参道を歩きはじめたら。
「送りは要らねーよ、竹丘センパイ」
日が暮れて顔がはっきり見えない男が俺達に向かって声を掛けてきた。
「おー。こんな時間に90段の階段を昇って参拝するなんて感心だねシャケ兄君」
歩み寄って相手を確認すると。
道着に袴、裸足に草履姿が似合いすぎてるし。凛々しい眉間に皺寄せてる顔見たら、とても俺のふたつも下の高校1年生には見えない貫録がある。
シャケこと『社家建』の兄『社家轟(ごう)』だ。
シャケ兄こと轟は俺がシャケを弄るのを余り快く思ってない。
「参拝客じゃなくて悪いな。――帰るぞ、建。今日は稽古付き合ってやるから」
お兄ちゃん大好きっ子のシャケは。俺から飛び移るように兄の腕にしがみついた。
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