7
「お帰りなさい。珍しいですね。2人一緒に帰るなんて」
丁度参道の石灯籠に火を灯す時間に帰ってきた俺達に親父が声を掛けてきた。
「タダイマ。下で会ったから」
「ただいま――…」
怪訝そうな顔でこっちを見る成瀬を目で制して、二人で屋敷に向かう。
「そんな顔すんな。親父殿に今日の事全部喋っていいのか?」
「あ…」
そっか。――言えないね…。って納得した様子の成瀬は。
境内裏にある屋敷に戻るまでだんまりだったけど、俺が自室に入ろうとした時に。
「竹丘さん」
声を掛けられて振り返ったら。
「今日は有難う」
これだけ言うのに時間掛かったな。って苦笑いしながら。
「ま…今日は気まぐれで行ったにしては――少しはお互いの事が解ったいい機会になっただろ」
面白そうだから気が向いたらまた迎えに行ってやるよ、って入りしなに声を掛けると。
「うん」
笑ったら可愛さが増すのにやっぱり成瀬は髪型が残念だよな…って思いながら。お互いの部屋に戻って行った。
明日の中間テスト最終日のために、またノート読んだり補助教材の問題集を解いたりしてたら、ドアをノックする音が聞こえた。
「はーい。入ってまーす」
成瀬が来たのだと思って適当に返事をしたら。
「――居るのは解ってますよ。マサヒコの返事は入室許可になってないから、こちらが困ります」
と文句を言いながら入って来たのは親父殿だった。
「あ…いや。成瀬かと思って」
「そんな事だろうと思いました。――まあいいです。今日あった事を話しなさい」
「――何?」
「御前は嘘が上手いですが。領君を見ていたら気が付きましたよ」
「――解ったよ。ただ成瀬が親父に知られたくないって思ってる事は汲んでやってくれないか」
「それは話の内容によります」
里親としては預かっている成瀬がどんな状況に居るのか把握するのが務めなんだろうけれど。
此処は俺だって譲れない。
「頼むよ。――俺もアイツがウチに居る間、真面目に面倒見てやるから」
珍しく俺が食い下がるから、少し驚いた顔をした親父殿は。
「――マサヒコ、領君が来てから御前も良い意味で、変わりましたね」
「変わった?何が?」
「領君を『同居人』程度にしか見ていないと思っていましたが。――もう御前は領君を適当には扱わないと決めたんでしょう」
御前は小さい頃から、面倒臭い事と自分の利益にならない事はやらないというのが徹底していましたから驚きました、とまで親父殿に言われてしまっては苦笑いするしかない。
「俺の事はどうでもイイだろ。今日の事は俺が全部話すから、成瀬に問いたださないって約束しろよ」
「御前がこれから先も領君のことを気に掛けてくれるというのなら、その約束に乗りましょう」
「――解った」
俺はとりあえず、今日あったことと成瀬が話した事は全部親父殿に情報として与えてから。
「親父殿。ひとついいか?」
「何ですか」
「アイツもしかして。今まで住んでた処全部でこんな調子だったのか?」
「――あの子は心が幼いように見えて実際は、良い意味でも悪い意味でも既に『独り立ち』出来ています。集団の内に居る事に馴染めないんでしょうね」
今までも『問題を起こす』というよりは、周りから浮いていて扱いに困る、というのが実情のようです。
「仲良しグループ作って給食喰ってるお年頃の癖に『独り立ち』出来てるなんて…下らねぇし糞ッ喰らえだな」
「身も蓋も品も無い言い方をするんじゃあないよ、マサヒコ」
「――悪い」
「でもまあ。私も御前と考えている事はそう変わりません。仲良しグループでべったりしろということは言いませんが。あの年頃で孤高の存在というより、浮いてしまっているのは余り得策とは言えませんからね」
「あー。それなら…心配しなくていい。心辺りがある」
ひとりこういう事にうってつけの知り合いが居る。
成瀬よりも扱いが良くわからない、ほぼ「宇宙人」と呼ぶにふさわしい天然さの持ち主のそいつに頼んで。
現状を打破して貰おうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます