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「うん、だからその後ずっと追っかけられて…。俺引っ越して来たばかりで通学路以外の道が解んなくて…暗くなるまで走ったり隠れたりして逃げ回って、迷った挙句、電柱とかにあった神社の案内頼りに帰ったんだ」
成瀬が息も絶え絶えな状態で帰ってきたあの日の夕方。
――まさかその若さで階段昇ったぐらいで息切れしてんのか?――
ってからかった時にコイツが反論しかけて止めたのは。
今日みたいな奴等から逃げてたのを隠したかったから?
「――そう言う事か」
俺が漸く全部理解したことに気づいたんだろう。
やっとココアに手を伸ばしてひと口飲みこんだ成瀬は。
「だって…『知らない奴からは全速力で走って逃げろ』って竹丘さんに言われたから」
俺、毎日追っかけられてはいるけど。絶対に手は出してないよ?
「…ったり前だ」
素直なヤツだと思う。
確かに顔以外の見た目はアレだけど。
とても問題行動ばかり起こす奴には見えない。
それにしたって『毎日追いかけられる』ってのは穏やかじゃない。
「御前…せめて目立たない髪型に変えたらどうだ?――来年は高校受験だろ。内申それじゃあ厳しいぞ」
私立じゃあ金髪ドレッドなんか絶対に許されない。都立高校なら校則がダダ緩な超進学校か、逆に校則が全く守られてない所謂底辺校しか選べないだろう。
そもそも成瀬の学力が未知数すぎる。
「――俺高校には行かないから」
中学卒業したらコンビニでバイトして独り暮らしする。なんて。
「何だその…まるで夢の無い未来設計図は」
どうして高校生の俺が中学生に向かって将来の事について説教しなきゃいけないのか良くわからない。
「じゃあ――竹丘さんは…何のために高校に行ってるの?」
「俺は…将来やりたいコトのために行きたいガッコがあるんだよ。だから俺が今やってる高校生活ってのは…言い方悪いけど夢に向かっての通過点だな。その為の環境が凄く揃ってるのが某都立高校だってコトだ」
ほら、俺が行きたいのは此処だと。鞄の中から赤い色の大学入試過去問集を引っ張り出して見せた。
「日本カギ大?――東大じゃなくて?」
俺の通ってる某都立高校は現役東大合格者が毎年20人を超える超進学校だ。
「そりゃあ俺なら東大理Ⅲ余裕だけど。俺はそーいうコトで学校選んでないの。あの学校って勉強は出来ても、面白くはなれそうにないだろ?」
医者か官僚か就職かって。俺に向いてねぇだろ。
「俺竹丘さんみたいに頭良くないし…別に勉強したいコトも無いし」
「まあ高校行って大学行くだけが人生じゃねぇ。――今すぐ決めろとは言わねぇけど。――コンビニのバイトなら何時だって出来るだろ?それは最後の手段に取っておいて。もうちょっと考えろよ」
学生長くやるほど、社会に出るまでの時間が稼げると思え。なんて。
成瀬とはたったの4つしか歳が違わないのに、俺も大概エラそうに喋るなあなんて、エスプレッソの苦さを口の中に思い出す。
「…解った」
「よし――じゃあ其れ飲み終わったら帰るぞ?」
明日も中間テスト続きがあるし。――コレでも受験生だから俺も帰って勉強するから。って促したら。
「――…」
また素直に頷いた成瀬はココアを飲み干した。
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