10

「――」


エアコン。クローゼット。机と鞄と、ベッド。


以上。


ここに来て2ヶ月は経とうってのに、成瀬の部屋は物がなさすぎる殺風景な空間だ。


「マジか…テレビもゲームも漫画もイケない本もグラビアポスターも無いなんて、ココは厨2の男の部屋なのか!?」


「別に無くたって問題ないだろ」


「――隠してるなら出せ」


「隠してない」


どこでも好きに捜せなんて言うから。遠慮無く机の中とかクローゼット開けたりガサ入れしても肝心のブツは見つからなかった。


「――ウソみたいにムダなものが無いんだな…」


「解ったら出て行けよ」


って頑ななコドモに言われて、ハイハイと聞いてやる俺じゃあない。


嫌がらせのように冷たいフローリングの上に胡坐かいて居座る。


「ヤだね、だって俺オマエと話に来たんだから。イケない本の好みなんてホントはどーでもいい」


散々人の私物を引っ掻き回しておいて大概な事を言う俺を無視しないで。


「――じゃあ何だよ」


結局は相手をするんだから成瀬もお人よしだ。


「シャケの事。アイツホントに良いヤツだからさ、あんまり無碍に嫌ってくれるなよ」


「――友達になってやれなんて、余計なお世話だろ」


「シャケ最初からそんなコト言ってたのか?何時オマエの所に来たんだ」


「俺今日も6時間目にチャイム鳴り始めてダッシュで教室出たけど、珍しく誰も追っかけて来なかったから、校門出る前に歩きはじめたら、校門の処に居た」


「アイツ待ち伏せしてたのか」


シャケの居る教室は成瀬の居る2階の一つ上、3階にあるはずだから、校門には更に遠いはずなのに、一体どんなミラクルを使ったんだ。


「突然、『ナルセリョー君ですか』ってカタコトみたいに話しかけられて。知らない奴だったから逃げようとしたら。『俺たけにーの代わりに迎えに来たよ?一緒に帰ろっか』って言われて手を掴まれた。逃げるにも隙が無いし、『たけにー』が最初竹丘さんの事だって解んなかったし、結局アイツ最後まで名前も解んないままだし…」


「アイツ…自分は名乗ってないのか?」


うん。と困ったように眉毛を下げて頷く成瀬に。思わず笑った。


「ハハハハハ…!御前凄いな、名前も何も解んない奴と何時間も付き合ってやってたのか!お人よしだなぁ…って言うかシャケのミラクルがやっぱり発動したな」


「笑うな…」


再び不機嫌そうに唸る成瀬に。


「悪い…思わず…。アイツは隣のご町内にある六勝院って寺の次男坊で『社家建』って言うんだ。神社なウチの商売仇だけど、まぁ言うなれば幼馴染って奴だ」


「竹丘さんが「シャケ」って呼んでるから魚の『鮭』って仇名なのかと思ってたら…ホントにそう言う名前なんだ」


「御前それ言ってからかったら、シャケの奴オマエの関節極めて、泣いて謝るまでまで止めないぞ?――一応あれで、合気道有段者だからな」


「だから隙が無いし、手を解いて逃げられなかったんだ…」


少し納得した様子の成瀬に。


「どうだ――今日は、放課後の三年生の追っかけが無かっただろ?」


「うん…」


「表だって目立つ悪いヤツラも、シャケがバカみたいに強いって知ってるから。御前がそのお友達だって解ったらそうそう仕掛けて来なくなると思うぞ。悪くねェ話だろ」


「――友達じゃねぇし」


要らない世話だと成瀬は言いたいんだろうけど。


「じゃあダチじゃなくてイイから、100歩譲って『腕の立つ知り合い』ってコトにしておけ。――今時携帯に名前載せるだけで『友達だ』って言い張って何百人登録するのが当たり前なご時世なのに…オマエケータイにどれだけ登録あるんだ?」


取り敢えず俺のくらいは登録しておけ。って今更連絡先を交換しようってケータイを出すけれど。


「――持ってない」


成瀬は探す振りすらしない。


「嘘吐け」


「――…」


コイツは多分嘘は言っていないな、って思ってたら。


「――どうせまた直ぐに引っ越すし。要らなくなる連絡先になるから必要無い」


親との連絡用で持つのがケータイデビューなんだろうけど。多分成瀬は今までたらい回しされた処でケータイなんか持たされた事が無い。

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