11

「成瀬。明後日の――土曜日は予定開けておけよ」


「何で?」


「この話の流れで『ケータイ買いに行く』以外一体何があるんだ」


成瀬は諦めたように笑いながら。


「だから…どうせ此処からもすぐ居なくなるし必要な『無くならない!』――…」


腹が立った俺はフローリングから立ち上がったら、ベッドに座ってた成瀬に詰め寄って肩を掴んで手荒く揺さぶった。


「俺達はオマエを諦めないし盥回しになんかしない。――御前が出て行かない限り、此処がこれから先ずっと成瀬領の帰る家だ」


「――…」


見上げてくる成瀬の顔は、泣くのを堪えてるんだって解る。


「――親父殿も母ちゃんも、オマエの事俺と同じように育てるつもりで居るからな。2人の前で絶対にそんな事言うなよ?」


解ったか、って念押ししたら。


唇をぎゅ、って引き結んだまま、成瀬が頷いたから。


自分が柄にもなく熱くなってたコトに気付いて急に恥ずかしくなって、慌てて掴んでた肩を押し遣るようにして成瀬から離れた。


「っ――とにかく!土曜日は出かけるからそのつもりで居ろ」


「――…」


うん。とまた声も無く頷く成瀬を残して。


俺も真っ赤になってる顔を見られる訳に行かないから慌てて部屋を出た。


勢いそのまま自分の部屋に戻らないで階段を駆け下りて居間に乗り込む。


「マサヒコ――どうしました?」


ソファで新聞を読んで寛いでいる親父殿の向かいに座って。


「明後日、一緒にケータイのショップに行ってくれ」


「土曜日ですか?構いませんよ」


夕刊から顔も上げずに返事をしてくるのは、適当に応えてるからなのか?


「――何も訊かないのか」


「御前は持って居るんだから、領君のものを契約しに行くのでしょう」


やっと新聞から目を上げて俺の顔を見ると、穏やかに笑う。


この何もかも見透かしてる感が、俺の親ながら少し気にくわない。


「ああそうだよ」


思わず舌打ちする。


「――早く大人にならねぇとイチイチこんな風にオトナにお伺い立てなきゃいけないんだからめんどくせぇな」


「まぁまぁ…。未成年の内と言わず学生の内は大いに大人に甘えなさい」


「何だよ…気持ち悪いコト言うなよ親父殿」


再び新聞を読み始めた親父殿は。


「その代わり社会人になったら早々に出て行って貰うからそのつもりで」


さらりと最後通告を言い渡してくる。


「おっかねぇな…」


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