12

 2月某日。


家に帰ってきた俺は。取り敢えず一番に成瀬の部屋に向かった。


ノックして。「入っていいか」って中に向かって呼びかけたら。


『――どうぞ…』


「おー。成瀬、電話しても出ねぇからさ」


部屋の中でベッドに寝転がって大きな本を広げてた成瀬は俺に構わずページ捲って大きな本眺めながら。


「ゴメン…充電してたから気が付かなかった。もう終わってるかな」  


「んー?」


机の上の充電器から取り上げてみると。着信履歴を示すサインが液晶画面に出てたけど。


隣に並んでるサインにもついでに喰いつく。


「御前何でサイレントモードにしてるんだよ。電源入っててもこれじゃ応答できなくて当然だろ」


「だってかかってくる事殆ど無いし…」


「御前が架ける事の方がもっと無いだろ」


嫌な予感がして電話帳開いたら。


竹丘家の親父殿と母ちゃんと俺。


多分シャケに無理矢理入れさせられただろう連絡先。


以上4件しか電話帳に入って無くて。


着信履歴もその4人分しかなかった。


発信履歴は3か月で0…。――ゼロ!?


「――何だ…折角ケータイ持っても全然友達増えてねーじゃねぇか」


友達100人目指せって言ったろ?


「そんなコトしらな…あ!勝手に見るなよ!!」


ようやく俺が携帯弄ってるコトに気付いた成瀬が慌ててベッドから起き上がって俺から携帯を取り戻そうとするけど、


身長が20センチも違う処に俺が腕を上げたら、成瀬は俺によじ登らない限り取り返せない高さになる。


「返せよッ!」


「オマエも厨2男子なら見られて困る連絡先のひとつくらいつくれよ…ガッカリさせんな」


「何だよそれ意味解んねぇよ!」


両手を上げて必死にちょーだいしてくるのが何か面白い。


「折角俺が――本命合格したぞって、親父殿や母ちゃん差し置いて御前に真っ先に現場から連絡入れたってのに…」


ケータイ持ってる癖に無視されたら、俺だって拗ねるぞ。


「あ…ホントに?」


「まぁこの俺が不合格な訳ないんだからほぼ出来レースみたいなもんだけどな」


「おめでとう…ございます」


取り戻そうと必死に上げてた成瀬の両腕が降りて。俺のコト見上げながら素直に言うから。


ドヤ顔で答えてやる。


「ああ。有難う」


「――…」


その後で何故か淋しそうにする成瀬に。


「どうした」


「大学行っちゃったら。もう竹丘さんに迎えに来て貰えないんだ…」


「御前…何の為に携帯があるんだよ」


「?」


首を傾げて見上げてくるのが、やっぱり犬のようだ。


思わず頭に手を乗せて撫でてやる。


「ケータイがすげー便利だけど最悪なトコロは、何時でも何処でも連絡着くようになったってコトだろ?」


講義とデート以外の時間は大体出てやるから、何時でも架けて来い。


って言った途端。単純な成瀬は解りやすく笑顔になって。うん、と俺の手が乗ったままの頭が頷くけど。


「解った。――あれ?…竹丘さんて彼女居るの?」


変なところに喰いついてくる。


「――言っとくけど俺はモテるぞ」


「背が高いしカッコイイし頭がいいから?」


「御前良く解ってるじゃねえか」


「前竹丘さんが自分で言ってたから。でも俺もそれはホントだと思うよ」


「まぁただ…モテるけど彼女は居ねぇから。心配しないで連絡しろ」


「うん、それもそうだと思ったよ?」


やっぱりにこにこと頷く成瀬の頭に載せた手を乱暴に揺らした。


「俺は彼女居ねえんじゃ無くて、モテすぎてひとりに選べねえだけだッ!!」


「解りましたごめんなさい!」


懇願してくる成瀬から手を外す。


「まぁ…――4月からは、今度は御前が受験生だろ」


「――竹丘さんの言うとおり…。高校には行こうかなって思うよ。ただ、将来何したいかはまだ解らないけど」


「よしよし。じゃあ俺が受験勉強見てやるから、希望してるトコに行けるように頑張れ」


「ええ!?…イイよそれは…」


「遠慮すんなよ。言っとくけど俺人にモノ教えるの得意だぞ?」


「だって偏差値75オーバーの竹丘さんに教えてもらえる処のLv.まで達してないし」


「俺が教えるからにはどんな残念な脳ミソでも1年でちょっとデキる奴程度にはしてやる――今度の3学期末の期末テストの結果と通知表。俺の処にも持って来いよ?」


何処を重点的に補強するか見てやるから。


「ヤダよ…」


「ヤじゃない!!2学期の通知表は親父さんと母ちゃんには見せたんだろ?」


「――…」


「まさか見せてないのか」


「だって見せろって言われてないし…。今まで誰にも見せたコト無いし」


もごもごと口籠りながら目を逸らすから。


コドモか(゜o゜)、って…まあ厨2なんだから子供なんだけど。


ちょっとイラッとして。


「成瀬!おーまーえー!!」


どん、と俺より頭一つ分以上小さくて華奢な身体を小突いたら、


「あ」


って呆気なく後ろのベッドに倒れ込んだのを良いコトに。

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