13
「?」
首を傾げて見上げてくるのが、やっぱり犬のようだ。
思わず頭に手を乗せて撫でてやる。
「ケータイがすげー便利だけど最悪なトコロは、何時でも何処でも連絡着くようになったってコトだろ?」
講義とデート以外の時間は大体出てやるから、何時でも架けて来い。
って言った途端。単純な成瀬は解りやすく笑顔になって。うん、と俺の手が乗ったままの頭が頷くけど。
「解った。――あれ?…竹丘さんて彼女居るの?」
変なところに喰いついてくる。
「――言っとくけど俺はモテるぞ」
「背が高いしカッコイイし頭がいいから?」
「御前良く解ってるじゃねえか」
「前竹丘さんが自分で言ってたから。でも俺もそれはホントだと思うよ」
「まぁただ…モテるけど彼女は居ねぇから。心配しないで連絡しろ」
「うん、それもそうだと思ったよ?」
やっぱりにこにこと頷く成瀬の頭に載せた手を乱暴に揺らした。
「俺は彼女居ねえんじゃ無くて、モテすぎてひとりに選べねえだけだッ!!」
「解りましたごめんなさい!」
懇願してくる成瀬から手を外す。
「まぁ…――4月からは、今度は御前が受験生だろ」
「――竹丘さんの言うとおり…。高校には行こうかなって思うよ。ただ、将来何したいかはまだ解らないけど」
「よしよし。じゃあ俺が受験勉強見てやるから、希望してるトコに行けるように頑張れ」
「ええ!?…イイよそれは…」
「遠慮すんなよ。言っとくけど俺人にモノ教えるの得意だぞ?」
「だって偏差値75オーバーの竹丘さんに教えてもらえる処のLv.まで達してないし」
「俺が教えるからにはどんな残念な脳ミソでも1年でちょっとデキる奴程度にはしてやる――今度の3学期末の期末テストの結果と通知表。俺の処にも持って来いよ?」
何処を重点的に補強するか見てやるから。
「ヤダよ…」
「ヤじゃない!!2学期の通知表は親父さんと母ちゃんには見せたんだろ?」
「――…」
「まさか見せてないのか」
「だって見せろって言われてないし…。今まで誰にも見せたコト無いし」
もごもごと口籠りながら目を逸らすから。
コドモか(゜o゜)、って…まあ厨2なんだから子供なんだけど。
ちょっとイラッとして。
「成瀬!おーまーえー!!」
どん、と俺より頭一つ分以上小さくて華奢な身体を小突いたら、
「あ」
って呆気なく後ろのベッドに倒れ込んだのを良いコトに。
勢いのまま両手をベッドに衝いて飛び乗ったら、成瀬に馬乗りになって追い詰めたけど。
「…っ」
「――…?」
成瀬は顔を真っ赤にして口をぱくぱくとさせながら俺を見上げてくる。
「どーした成瀬、変な顔して」
これからどう苛めてやろうかと考えてたら。
ドアがノックされて。
『領君、入っても良いですか?』
廊下から親父殿の声が聞こえてきた。
「あ…ハイ!!」
成瀬が俺の腹を両手両足で押しのけながら起き上がって返事をする。
「ぅわッ!!」
俺は呆気なくベッドから 40 ㎝下のフローリングの床に転げ落とされた。
受け身の取り方なんて知らねえし、べしゃ、って情けなく俯せのまま思い切り腹と顔を打つ。
「――何ですかマサヒコ…オマエが騒いでいたんですか」
帰ったなら下にひとこと言いなさい。と、呆れたように上から親父殿の声が降ってくるけど余りの痛みでそっちに応えてる余裕はない。
「…ってぇ…なコラ成瀬!!」
冷たいフローリングの上で両手で顔を覆って身体を丸めて悶絶しながらベッドの上に居る成瀬に文句を言うけれど完全に無視された。
「お父さん。――もしかして、この間話した事ですか?」
「ええ。市役所と、知り合いの弁護士に聞いて来ましたよ?」
今大丈夫ですかと、手にしていた大きな封筒を示してくる。
「マサヒコ。悪いが少し出ていてくれませんか?」
領君と大事な話がありますから。と珍しく俺に有無を言わせない様子で命じるから。
「何だよ…」
痛む身体を摩りながら、床から起き上がって出て行こうとしたら。
「――お父さん、竹丘さんにも聞いてもらいたい…です。ダメですか?」
どうやら呼び止められたらしいから振り返ると。
成瀬が真剣な顔してるのが解ってこれ以上ツッコミも入れられず開きかけたドアを閉める。
親父殿が勉強机の椅子に腰掛けるから。
行き場が無くなった俺は成瀬と並んでベッドに座った。
親父殿が手にしていた封筒から書類やリーフレットを取り出して机に並べ始める。
「領君が希望している改名には、おもな方法は2つあります」
「――改名?」
俺の呟きは二人に完全スルーされた。
「新たな養子縁組で姓を変える。これは領君も幾度か経験済みですね?もうひとつは完全な『改名』ですが。通称を使い続けてある程度実績を積んでから裁判所に申し立てる方法です。弁護士の先生によると、最低でも 5 年は通称で通す必要があります」
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