LOVE YOU ONLY（兄目線）

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残りの40段をできるだけゆっくり登って、頂上の神門の前にある獅子と狛犬の間に辿りつく。

担いでた自転車を置いてスタンドを立てたら。一番上の段に腰掛けた。

「ほら、座れよ」

促して隣に座ってきた成瀬と、夕焼け色に染まり始めた町を見下ろす。

「毎朝階段降りる時に見るだけだから。俺こんな風にちゃんと見るの初めてだ」

「どーだ。悪くない景色だろ？」

自慢気に両腕を拡げながら訊ねたら。

うん、と頷く成瀬は今日ようやく初めて笑顔を見せた。

大きなビルやマンションは少なくて、一戸建てが多い地域なのも、拓けて見える理由だろう。

「お！今日は富士山が良く見えるなあ」

夕焼けの向こうに、シルエットで見える美しい成層火山を指差す。

「ホントだ…」

「此処から富士山までは南西方向に大体直線距離で85キロある。北東85キロの方向には、天気のいい冬の日には筑波山も見えるぞ」

「写真撮りたい」

なんて。両手の親指と人差し指でフレーム作って腕を伸ばす成瀬に。

「写真に興味があるのか？」

「興味って言うか…。最近良く、図書館から写真集を借りてきて色々見てるんだ」

そう言えば昨日成瀬の部屋に行ったときに大きなハードカバーの本を寝転がって見ていたか。

内容は確認しなかったけど。中高生の男子が見るって言ったら当然。

「好みのグラビアクイーンは誰だ？」

俺はー。さくらしょーこちゃんかな～。幼い顔してる癖に表情エロいし谷間が凄いってギャップがグッとくるんだよな～！なんて言ってたら。

「違うよ！！海外の風景とか…空の写真集だよ！」

市立図書館で借りてきてるんだからグラビア写真集貸し出す訳ないだろ！？

「まー。御前みたいな給食喰ってるジャリ厨じゃあ、しょーこちゃんの写真見たら確実に失血死だな。俺何冊か持ってるから後で貸すぞ」

「キョーミ無い！」

「え！？カワイイ女子に興味が無いのか御前！！男子としてそれは不味いぞ！」

「もーいい！！ほっとけよ！」

折角座った処を立ち上がって振り返るから。

「待て！」

神門を潜って行こうとした成瀬の手首を捕まえて引き留めた。

「ほっとけねぇぞ？――俺に話があるんだろ？」

此処まではアレだ、オマエが話しやすくするためのアイドリングみたいなもんだ。御前昨日からずっと不機嫌だったし…。

「話すには雰囲気作りが大事だろ？もう真面目に聞くから。とにかく此処に座れ」

石段の俺の隣を手のひらでパシパシ、と音立てて叩く。

「――…どうして竹丘さんて。普段はふざけて人をバカにしてるとしか思えない物言いなのに、急にカッコよく見えるんだろう」

「それはもう…俺が生まれ持った魅力の話だからオマエが幾ら努力してもしょーが無いな。諦めろ」

軽口をまた叩いた後で「あ、やっちまったな」って気が付いた俺が表情変えたのを見て。

「ホントだ。俺には真似できない」

成瀬の幼い顔が笑顔になって隣に座るのを見て俺の方が何故かほっとする。

「話って何だ？」

「うん。今日一日ずっと考えてたんだ」

「もしかして『看板を書き換える』話か？」

「うん。――俺『竹丘』には成らないよ」

親父殿が聞いたら、『領君の決断を尊重する』なんて言ってた割に、コレ聞いたらガッカリするんだろうなあ、なんて思いながら。

「――じゃあ、成瀬領のままにしておくのか？」

成瀬はふるふると首を振った。

「直ぐにでも変えたいって思ってる事は変わらないんだ。だから――３年生から通称を使い始めて…５年、二十歳になるまで我慢しようと思う」

「そうか。名前は決めてるのか？」