33

「おー。小野、ご苦労さん。何か砂浜の上の方がアスファルトより暑い気がするなぁ」


担いできたバーベキューコンロを砂浜に置いて組立始めた俺に。


「たけにー。何か俺手伝えるコトある?」


周りでそわそわしながら俺のコト伺うのは、きっと目の前の海が気になって仕方ないんだろう。


「あー。此処は大丈夫だ。オマエも海に初めて来たなら折角だからもっと近くで見て来い。焼けたら呼んでやるから」


「――靴脱いでもいい?」


「車乗る前ちゃんと砂落とせよ?」


「解った!」


小野は砂の上に座りこんだら両足から毟るように靴と靴下を脱いで急いで立ち上がると。


さっき車から飛び出した時と同じように、


「行ってきます,,,,,,(((( *≧∇)ノノノ!!!」


凄い勢いで波打ち際まで駆け出して行った。


「――元気だねぇ…。あ、しまった…」


きっとまたスゲー可愛い顔して海と戯れちゃったりするんじゃねぇかって思ったら。


シャッターチャンスが色々あったんだろうなぁ。なんて思ったりする自分が恐ろしい。


組み立てたバーベキューコンロの真ん中に炭を煙突状に組んで、丸めた新聞紙に火をつけて炭の煙突の中にインして暫く待ったら、10分くらいで炭が真っ赤に燃え始めたから、崩して炭を拡げる。


食材はあとは焼くだけで済むように今朝は早く起きて準備してたから。


クーラーボックスから次々と皿や瓶を取り出してたら。


「たーけにーヽ(^◇^)/ *!!」


もう戻ってきた小野にご機嫌な声で呼ばれて、


「まだ火を起こしただけだから焼けてねえぞ。もうちょっと遊んで来い」


って振り返ったら。小野は、


「ねー竹にい。コレ食べられる(?_?)」


やけに長いトゲがうじゃうじゃついてる…ウニの仲間なんだけど普通の奴なら『コイツはヤバい』って本能的に解るから触らないはずの『危険生物』を小野は難なく指先で抓んで戻ってきた。


「バカ!!!!直ぐに放しなさいッ(`Д´メ)!!」


俺があんまりな剣幕で怒るから、驚いた小野は抓んでた通称『ガンガゼ』をぽいっとこっちに向かって放り投げた。


「うわッ!!!オマエこっちに飛ばすなよ!!」


俺が辛うじて身を翻して避けたら。俺の横を掠めたガンガゼはべしゃり、と砂の上に落ちた。


「あ、ゴメンたけにい!!びっくりしちゃって…」


「頼むよ小野~。海は楽しいけどおねーちゃん以外にも危険がいっぱいなんだよ?」


「これウニじゃないの?」


落ちたガンガゼの前にしゃがんで名残惜しそうにつつこうとする小野に。


「やーめーれッ!ソイツはウニはウニでも『ガンガゼ』っていう毒ウニだ。長い毒トゲが一杯ついてて、触るモノ皆傷つけて痺れさせる昭和の不良みたいな奴だ」


刺されたら死にゃあしなくても皮膚が紫色に腫れて、もうイライラするくらいジワジワ痛いぞ!って経験者な俺が説明したら。


ようやく小野は両手を上げてガンガゼから距離を置いた。


「…そうなの?」


「ソイツ1個だけじゃなくて周りにうじゃうじゃいただろ?」


「うん。――5~6個ずつの塊で群れがあって、あのあたりの岩場の色んなトコに居た」


小野が200mくらい先にある岩場を指差した。


「ソイツは海藻を食い散らかしてガンガン増えるから、漁場を荒らして漁師から厄介者にされてるし、毒があるなんて知らないオマエみたいなコドモが刺されて泣くから、海のレジャー客にもスゲー嫌われてるしで、誰も獲るヤツなんか居ないから天敵居なくてどんどん増えるんだ」


「そう言えば俺の周りの奴誰も獲って無かった…」


「知らないモノ触ったり、口に入れたりするんじゃないよ…って、ホント御前怖い者知らずだな…」


「怖い者知らずって言うか俺だってコレが毒ウニだって解ってたら触らないよ」


小野がガンガゼに爪先で砂を掛け始めたのを止めて。


「ただな…。実はソイツが意外に美味いのを俺は知ってる」


「え!コレ食べられるの?!」


「ソイツに毒があるのはトゲだけだ。九州の方では実際獲って喰う地域もある。俺も海洋生物の研究室で喰った事がある」


「じゃあ俺沢山とってくる!」


「沢山はダメだ」


「え?何で!?」


「日本の海岸線はほぼ全部『漁業権』ってのが設定されてるんだ。そいつもフツーは喰わないって言ったってウニの仲間だから、勝手に採ったり食ったりするのは犯罪になる」


一応釘を刺したら。小野は解りやすくがっかりして眉を下げた。


「そうなんだ…」


一旦落としておいてから、


「とはいえ。一応此処岩場は観光案内にも『磯遊びや採取が出来る』って書いてあるくらいの処だし、とっ捕まりはしないだろ?取り敢えず食材は持ってきてるんだ。俺は要らないから、試しに御前が喰うくらいの数だけ獲れ。それと、岩場は裸足厳禁。滑るし、知らない間に足の裏を怪我して血まみれなんてザラだ。行くなら濡れるのは我慢してちゃんとシューズ履いていけ」

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