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ほらコレに入れて来い。と空にしたクーラーボックスを渡すと。
「解った」
20分もすれば、串に刺してた車海老やズッキーニやパプリカや塊の肉がいい具合に焼けて来て。
スペアリブから網の下に滴った油が、炭にぶつかって爆ぜる音を立てる。
小野を呼びに行こうかと磯場の方見たら、丁度嬉しそうにクーラーボックス抱えて戻ってきた。
「どれくらい獲ってきた?」
下に置いたクーラーボックスの蓋を開けた小野は。
「20個くらい…」
居るいる。尖りまくって周りを威嚇してる凶悪なあいつ等がクーラーボックス一杯にトゲ張り巡らせて入ってる。
ガンガゼは大きさの割に食える処は少ないから、
「ま…そんなもんか…。処理は時間がかかるからコイツを喰ってからにしよう」
腹減っただろ?って皿とフォークを手渡して。トング使って金串を抜いた肉とスペアリブを盛ってやる。
「すげーv(≧∇≦)v !!美味そう!」
「『美味そう』じゃ無くて美味いぞ?」
「いただきマース」
今日灯台に着いた後からずっとご機嫌な小野を眺めてたら。何だか俺まで気分が良くなってくる。
「ハイハイ召し上がれ」
早速スペアリブの骨の両端を指先で抓んでかぶりついて。
「――あっつい!!(゚ロ゚屮)屮けど…うまいΣ(・口・)!!!!」
「良いリアクションだなー」
ホラもっと食え。って山盛りに魚介や茸やズッキーニを次々と小野の皿へ積んでいく。
「待って竹兄!早いよ~!」
これ以上盛れないってとこまで載せたら、小野が泣きを入れて来た。
「オマエのお世話してたら俺が喰えないだろ?最初だけだよ」
ほら。後は自分で好きなようにやれ。って小野専用のトングを渡したら。
「ゴメン…後は俺が焼くから」
竹兄は食べてるだけでいいからね?と自分の皿を置いて空の皿を取り上げたら、取り敢えず積んでた俺と違って、肉や野菜を皿の上にきちんと『盛り付け』してから、俺にサーブした。
「どうぞ」
「アリガトな。オマエ料理できるのか?」
「時々お母さん手伝ってるし。多分できてると思う」
小野は次に焼く食材や調味料や器具をひととおり見て。
「――…」
殻ごとの車海老と竹串を両手に持ったら、尻尾の辺りから突き刺して見事に真っ直ぐな海老の串を作って見せた。
「どうかな…。見よう見まねだけど」
「上手い上手い。オマエって『見ただけ』で何でも再現できるある意味特殊能力があるよな」
「じゃーオマエが焼いてる間に、俺がコイツを喰えるように下ごしらえしてやるから」
ガンガゼの入ったクーラーボックスの蓋を叩いたら。
「持って帰らないの?」
「生きたまま持って帰れる訳ねーだろ。此処で喰うぞ」
ガンガゼ一杯のクーラーボックス両手に抱えて立ち上がったら。
とにかくガシャガシャと前後左右に出来る限り乱暴に振り始めた。
「え!?どうしたの竹兄!!」
「いいから見てろ」
時々休み休み、3分くらい振り続けてから、
「そろそろいいか…。コイツも反省して大分丸くなってるはずだ」
なんて嘯きながら振るのを止めて、ようやくクーラーボックスを足元に置いて蓋を開けたら。
ガンガゼの不良みたいな長いトゲは無残にクーラーボックスの中で破砕されて、反省させられた後のいがぐり頭みたいに短いトゲトゲ姿に代わってた。
「凄い…もう危なくないの?」
「まーあとは残ってるトゲを、キッチン鋏で切って」
普通のウニより脆いトゲだから、鋏で更に短い五厘刈りくらいにさせた。
「この…白い嘴みたいになってるのが口だ。此処を鋏で抉り取ったら」
ぽっかり2~3センチの穴が開いたトコロ3か所くらいに鋏で切り込みを入れる。
「ほら、此処の穴に両手の親指突っ込んで割ってみろ」
小野に渡したら。
「――…」
始めは恐々と指を立ててた小野は、思い切って力を籠めた。
「あ…全然力要らないんだ…」
呆気なく割れたモノを俺に見せてくる。
「な?見た目スゲーのに、トゲも殻もまるで軟弱だろ?ホント見かけだけの不良だな。で…この黒い処が内臓と…コイツが喰ってた海藻の残骸だ。其処で洗ってみろ」
小野にバケツに汲ませてた海水で洗わせたら。
「何か…黄色い花びらみたいなのが残った」
「そうそう。其処で残った部分が、ソイツの卵巣や精巣、所謂『可食部』だ」
五枚の花弁のような部分が殻の内側に張り付いて残ってる。
「それをスプーンで掬って、キレイな海水に漬けておく」
「はい」
小野は素直に俺の言うとおりに形が崩れないように慎重にスプーンで掬った物を、ぽとり、と小さなボウルの中の海水に落とした。
「――…」
「どうした」
「こんなに面倒臭いのに20個も拾ってきちゃった…(ノд-。)」
竹兄ごめんなさい、なんて謝られて。
「オマエが喰う分拾ってきたんだろ。ちゃんと剥いてやるよ。イイからオマエは肉と海老と野菜焼いて食ってろ」
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