32
蒼い海が太陽の光を受けて光を反射させてる。
白い波を立てて進む大型タンカーに、漁船や観光船、ヨットも見えた。
「――」
話をするのは俺ばっかりで。小野は黙ったまま隣でじっと海を眺めてる。
「海に来るの初めてか?」
「――海のある町に住んだこと無いし。車や電車から眺めたコトしかない」
家族旅行や臨海学校で来なかったのか?なんて小野に聴くのは酷な話だろう。
「どうだ?初めての海は」
「波の音と…」
って言った後に、隣で大きく深呼吸する音が聞こえた。
「――海の匂い?」
小野に言われるまで俺は余り気にならなかったけど。下の岩場で波が砕ける音と。頬を撫でる潮風の香りに気付く。
「あー。ホントだな。磯の香りだ」
「どっちも…気持ちいい…」
小野は多分今、海を見ないままに海を感じてるんだろう。
隣を見たら案の定、手すりに両腕預けて、瞳を閉じて少し微笑んでる。
「そーか、良かったなぁ」
キレイな横顔。
今ならさっきみたいな仏頂面じゃないイイ表情が撮れそうで。
シグマのレンズカバーを外して、ファインダーを覗いた。
女子みたいにさらさらとした金色の髪を靡かせる潮風。
その姿をファインダー越しに眺めてたら。暫くして感じたのは。
――何だ?
ぎゅうぎゅうと胸を締め付けられるような息苦しさに急に襲われる。
――ヤバい。
コレは忙しすぎるって言い訳して暫く忘れてた、
あのエスプレッソに添えられたミルクチョコみたいに甘い感情だと気づいたから。
辛うじて一回シャッターを切った後、俺は呆気なく恐慌を来した。
「黙って撮らないでよ竹兄」
こっち向いて笑った小野を。
『カワイイなちくしょー(=´Д`=)ゞ!!』
危うくカメラ取り落としてハグしそうになった腕を無理矢理上げて。
行き場を失った右手を無理矢理載せて、頭をぐりぐりと撫でまわして衝動をやり過ごした。
「このー!!!何だ!可愛い顔しやがってこのやろう!!!」
「え!?何!?俺何かした!?っていうか竹兄怖いよこんなトコで!」
俺に突然八つ当たりされた小野は、狭い展望台が揺れるのを怖がって先に階段を降りて行った。
「――あー…」
残された俺は手すりに凭れてがっくりと首を落とした後。暫くしてからよろよろと起き直る。
階段を降りながら、
「今日ホテルキャンセルして帰るか」
相手は『未成年』で『戸籍上は家族』でしかも『男』…。
「三重苦過ぎる…」
階段を降りて地上に戻って来たら。また虚子の句碑の処に居た小野が。
「次何処に連れて行ってくれるの?」
俺もう此処に来られたら満足できた。なんて言うから。
「じゃあもう帰るか…」
何だか今日一日色々暴走しそうな自分が怖くて思わず呟いたら。
「え?」
小野が驚い顔した後、少し悲しそうな表情見せたから。
「あー!!嘘嘘。冗談だよ、イチイチそんな顔するな。昼飯此処で喰ってから、美術館か港を見学するぞ。宿も横須賀市内だ」
此処まで昇ってきた道を今度は凄い勢いで降りて行く。
「来るとき通ってきたレストランに行くの?」
歩幅の大きい俺に慌ててピッチを上げてついて来ながら訊ねてくる小野に。
「違う違う。何の為にデッカい車借りてきたと思ってるんだ。オマエにも手伝ってもらうぞ」
「手伝う?」
「公園内に解放してる浜辺があって、其処でバーベキューするぞ」
パラソルもグリルも肉も野菜も全部積んであるから。運ぶトコまではオマエも手伝えよ。
「何か…」
「ん?」
「楽しそう」
「『楽しそう』じゃ無くて楽しいぞ?」
――コイツがカワイイのは今に始まった事じゃない。
暫く会ってなかったからきっと突然可愛い顔間近で見て中てられただけだ。
慣れれば大丈夫だ。
色々自分に言い聞かせながら、駐車場までの道を駆け下りる。
黒いハリアーのトランク開いたら。
「オマエはコレと…コレ持ってけ」
「ハイ」
パラソルと食材入ったクーラーボックスを小野に任せて。俺はグリルセットと燃料のボンべの入ったバッグを担いで、トランクのドアを閉める。
「行くぞ」
今度は並んで浜辺に向かう。
「浜辺は海水浴場も兼ねてるからなぁ。水着のおねーちゃん達眺めながらBBQとかサイコーだろ?」
暫く防砂林の間の小道を進んだら。
カラフルなパラソルやレジャーシートが浜辺を彩ってるのが見えてきた。
「小野、先に行って好きな場所にソイツを立てろ」
「ハイ!」
またいい返事した小野は。大きなパラソルを肩に担いで駆け出す。
後ろ姿見見送りながら俺もグリルセットを担ぎ直してゆっくり後を追う。
灯台の辺りは殆ど人が居なかったのに。
浜辺はバーベキューが可なことを謳っているからか、家族連れや昼間から飲んで騒いでるような大人の団体が多かった。
「たけにー!!此処だよー」
オフホワイトのハンギングパラソルを開いた下で、小野が手招きしてるのが見える。
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