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一見6時ちょうどを差してるアナログ時計のように見えたけれど。ゆらゆらと針の部分が固定されずに文字盤の上で揺れていた。
「ああ…こいつはコンパスじゃねえか」
「コンパス?」
「ああ…コンパスだと羅針盤になるか…。正確に言うならコイツは『方位磁針』だ。針に北の方向を合わせるから。まあそんな細かい事はイイや。ホラ」
また小野の手のひらの上にそれを戻してやったら。
「ホントだ。針揺れてるけど、ずっと同じ方向指してる…」
不思議そうにそれを眺めていた小野は、やっぱり首を傾げてる。
「どうした?」
「建君や竹兄みたいにアクセサリつけたコト無いのに」
「まー、あと少しで高校卒業するんだから。ちょっとは洒落っ気出せよ的な…コトじゃねえなコレは」
少しシャケに後れを取った気がした俺は、ホントは小野がこの意味に気づかないまま教えてやらないって手も使えたけど。
俺もシャケと同じ気持ちだったから。俺の見解を教えてやった。
「――迷ってる小野に、少しでも行く先を示す力を与えられるモノをやりたいって選んだんだろ?アイツホントに…時々オトコマエなコトしてくれるよな」
「――…」
小野は黙って細いチェーンを首から架けて。ペンダントトップの位置を首元に来るように調整した。
「どうかな…」
暗い夜道の下だけど。ペンダントトップは少ない明かりを鈍く反射してる。
「いいんじゃないか?――大事にしてやれ」
「うん」
こんなにしてやられた感満載なプレゼント公開の後、俺が渡すモノがどれだけ小野に響くのか偉く心配になった。
30分はかけてゆっくり神社の前まで来て。またゆっくり90段の階段昇りながら。
「シャケに先越されたけど。俺からもあるぞ、プレゼント」
肩から提げてたバッグから取り出したのは。
20センチ四方くらいで、手を広げてやっと乗るくらいの大きさの箱だ。
「オマエが此処に来てから4年かぁ。――じゃなくて。誕生日おめでとう」
って両手で差し出したら。
「有難う!」
小野も両手で受け取って。そのまま抱えて階段昇り続けてるから。
「開けないのか?」
「落としたらイヤだから家に着いてからじゃダメ?」
親父殿や母ちゃんに観られるのが恥ずかしいから、って言うトコロは隠して。
「落とすなよ。イイから此処で開けてみろって」
「解ったけど…じゃあ階段昇ったところで座ってでもいい?」
「いいぞ」
って応えた途端、小野は凄い速さでまだ50段はある階段を駆け上がり始めた。
「おい小野!!」
ここ一年研究室に籠りきりでろくにランニングやトレーニングが出来てなかったから。とても並んで駆け上がれる体力が無い。
「たけにー早く!」
上から降ってくる声に手を挙げて応えるけど昇る速さが変わる訳じゃない。
「あー。元気だねぇオノサトリ18歳…」
小野に遅れること2分程で俺も神門前に辿り着いた。
狛犬と獅子の間に挟まれて階段の一番上に腰掛けた小野が、此処此処、と隣を手のひらで叩くから。
「ハイハイ」
大きく息を吐きながら隣に腰掛ける。
また丁寧に箱を覆っていた包装紙を取り去ったら。
中の箱にプリントしてあった写真を見て、ロゴを指先で辿った。
「――シグマ?」
「そう。最近発売されたシグマ光学器のSA-9だ」
「ごめん。あんまり聴いた事は無いけど竹兄も此処のカメラ持ってたよね?」
「俺のはひとつ前のSA-7だ。元々レンズ専門のメーカーだったけど今はカメラ本体も造ってるんだ。カメラやってる奴しか知らないかもしれないなぁ」
小野は箱を開いて緩衝剤を取り除いてから、カメラを取り出した。
黒光りする新品のシグマを抱えた小野は。
「直ぐに撮れる?」
「フィルムをセットして、オートフォーカスとフラッシュ用の電池を入れれば撮れるぞ?貸してみろ」
俺のカメラの後続機でSA-7と同じような作りをしてるから、フィルムと付属のリチウム電池をセットしてから手渡す。
「ホラ」
「有難う。ねえ竹兄。撮ってもいい?」
「は?――俺?」
うん、と頷いた小野が、カメラのレンズを向けてくる。
「まぁ別にイイけど…カッコイイからな」
「じゃあ…こっち向いて…笑って?」
「笑えって言われてもなぁ…」
両手で顔を覆って。
右手の人差し指と中指の間だけ開いて、右目から覗くようにした。
「誰だかわかんないよ…」
小野がフラッシュを焚いてシャッターを切る。
「しょーがねぇな…。じゃあコレでどうだ」
神門の右側に居た石造りの獅子の後ろに隠れて、顔だけ出した。
「あはは!竹兄可愛い」
「成人とっくに超えた180オーバーの男を捕まえて可愛いはねぇだろ…」
って言いながらもこれ以上ないってくらい笑顔見せると。
またフラッシュが焚かれた。
バカな写真ばかり二人で撮ってたら。
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