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「こんな寒い処で何をしているんですか」
神門の向こうから親父殿が声を掛けてきて、ヨガの英雄のポーズ崩れの変なキメポーズしてた俺は慌てて起き直って誤魔化した。
「何でもない。――タダイマ…」
正気に戻ったらそりゃあ寒い処でサムいコトしてたのを目撃されたんだから、恥ずかしくてかえって身体が熱くなる。
「お帰りマサヒコ。サトリ君も」
親父殿はそう言うトコロは解ってても冷やかしはせず完全スルーしていく性分だからまだ救われた。
「只今戻りました。――お父さん。竹兄がこのカメラ誕生日のプレゼントにって俺にくれたから、使い方を教わってました」
「そうでしたか。――お祝いの支度も出来て、母さんも待っていますから、そろそろ戻ったらどうですか」
「ハイ」
親父殿に従順な小野はカメラのレンズカバーを嵌めて、ストラップで首に吊り下げた。
――しまった。
こんなバカな撮影会するんじゃなくて。もっと大事な話を小野にしなきゃならなかったのに。
親父殿や母ちゃんがいる処じゃあとても話せない。
今夜大学へ戻るまでの間にきちんと伝えられるのかと並んで歩く小野の隣で少し焦る。
「たけにー」
「ん?」
「カメラ有難う。――大事にするからね?」
大事になんてしなくていいんだよ。擦り切れるくらい使い倒せ、って口にしかけたけど。
誰にも聞かれたくなかったから。
「ああ」
とだけしか此処では答える事ができなかった。
小野の誕生日を家族で祝った後、久々に自宅の居間でゆっくり過ごしてたけど。
「じゃあ…俺はそろそろ」
上り電車の終電は0時半、そろそろ駅に向かわないと大学に戻れなくなるから、ショートコート羽織ってマフラー捲いてソファーから立ち上がる。
「卒論通って、院の試験もパスすれば一度こっちに戻るから。次もし来られるとしたら3月末くらいかな…」
「そうですか。解りました」
親父殿はこういうとき余計な激励も詮索もしないから。傍目には凄くドライな親子関係なんだと思う。
「竹兄今日はありがとう」
小野も立ち上がって、見送ってくれるつもりなのか後追いしてくる。
「小野。少し外出られるか?」
今しかない、と声を掛けたら。
「いいよ?」
「玄関で待ってろ」
小野を留め置いた俺は階段を駆け昇って久々に自分の部屋に入ったら、暗いままでも何処に何があるかは感覚で解るから、目標の机の引き出しを迷わず開いた。
玄関でシューズ履いて待ってた小野は、ロンT一枚着てジーンズ穿いてるだけの相変わらずのシンプルなスタイルで。
そう言えばさっきシャケから貰った小さなコンパスのペンダントトップが提がってるのが、ネックレスなんてしたことない奴だから目新しい気がする。
「待たせたな。――御前ソレ寒くないのか?」
「へーき(((。-_-。)」
「じゃあ…行くか」
コート着てマフラー捲いてる俺とは余りに違うけど。まあ話終わったら直ぐ戻るんだからとそのまま玄関を出て神社の神門へ向かう。
吐く息は白くはなくても、この時間帯では完全に10度を切ってるはずだ。
境内の砂利を踏んで音を鳴らしながら、並んで歩く。
参道の両脇に沿って立ってる石灯籠の灯りが、行く先を仄照らしてる。
神門を潜って、また石造りの狛犬と獅子の間に戻ってきた処で。
「小野」
暗がりの中で呼びかけて立ち止まらせたら。
「手ぇ出せ」
「――こう?」
18歳ってコトはもうこれ以上身長が劇的に伸びるなんてことはないだろうから。相変わらず俺より15センチは身長差がある小野は。
俺よりずっと小さくて華奢な手を広げて差し出してくる。
その右の手のひらに、俺が机の引き出しから持ってきた小さな箱をひとつ載せて、ぎゅ、と覆うように、寒さに冷えた小さな手を両手で握ってから、押しだすように離れた。
箱を握りしめた右手を開いて、小野が目の高さにまで上げて正体を確かめてる。
「カメラの…フィルム…」
「――ああ。さっきカメラに入れたフィルムは、俺のフザけた顔ばっかり撮って台無しになったからな。だからこのまっさらの1本に、お前が好きな物なんでも撮って見せてみろ」
36枚埋まったら、どんなに忙しくても必ず時間作ってやるから。
必ず俺に見せに来い。
『シャケと同じで、俺だって迷ってるオマエを放っておけないんだぞ』
って言うのやっぱり恥ずかしいから飲みこむけど。
「――たけにー…」
フィルムの箱を握りしめた小野は。
何時か見せた泣きそうな笑顔で、俺のコト見上げてきた。
「――泣くな」
「泣いてないよ」
「そうか」
小野の胸元に提がってるコンパスのペンダントトップが目に留まって。
シャケにニヤニヤしながら見られてる気がして少しイラッとした俺は。
自分がしてた蒼いマフラー外して。小野の首元にグルグル巻きつけてやった。
「!?――Σ(゚д゚;) !?!」
「オマエやっぱり寒そうなんだよ」
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