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「院に入ったらすぐにUMAを研究できるんじゃないの?」
テラスで海見ながら話している間にすっかり日は沈んで。
何時の間にか所謂トワイライトタイムと呼ばれる、海面スレスレの空は赤くて。高さを得るにつれオレンジ→白→水色→青→濃紺というグラデーションが綺麗な時間帯になってきた。
頬や髪を撫ぜる風に、ようやく涼しさが感じられる。
昼間灯台に昇った後からついさっきまで何度か襲われてた、小野に感じてた突き上げるような衝動は不思議となくなって。
こうやって手のひらで、手すりに肘衝いて隣の小野のつやつやの金髪の頭を撫でても平気な程には持ち直してた。
「――イヤイヤ、院の最初の2年間の修士課程は師事する教授の小間遣いみたいなもんだ。博士課程に進んだらようやく、自分のやりたいコトを研究したり講師して教員の端くれみたいに金が貰えるようになる」
「そうなんだ…」
「俺が博士課程に進む頃、オマエも何か方向決めて進むようになってるといいな」
「2年で見つかるかな」
大丈夫かな――って言いたげに隣から俺のコト見上げてくる視線が可愛くて。
思わず頭に載せてた右手を、頬に宛てたら。
小野は驚いた顔する事もなく俺の事見詰めてから。
「――…」
瞳を閉じた。
六勝寺の本堂北の渡り廊下に寝そべってスイカを喰ってたシャケが。
「なあんだ…竹兄ってやっぱりスゲーヘタレ!!」
なんて俺のコトバカにして言うから。俺は境内の砂利に飛び降りて、地団駄踏みながら抗議した。
「――ッ!!ヘタレって言うなヾ(。`Д´。)ノ!!!」
「フツー其処はちゅーだよ。ちゅー(゚・^*)」
サトリ君ガッカリしたんじゃないの?
「バカ!!出来る訳ねーだろそんなコト!!オマエ何聞いてたんだ」
「ちゃんと聞いてたよー?一泊旅行行ったのはイイけど、サトリ君目の前にしてもうムラムラが止まんなくて煩悩塗れになって帰って来ちゃったから、今後どうしたらいいか解んないんでしょ?」
俺まだ当分は俗世の人だし、竹兄の事教え導けるような程修行できてません。って言うかどうして俺んとこ来たの?なんて。惚けたように聴いてくるシャケに。
「こんなコト親父にも轟にも話せねぇだろ!」
「あー。五月蝿いよ竹兄。そんなに誰かに聴かれたいの?」
昔はただただおバカにしか見えなかったシャケも今や大学1年生。
普通に俺に説教できる人になってしまった。
「そう言えば今日轟はどうしたんだ?」
小野やシャケよりも更に遭遇率の少ない彼奴の動向を聞いたら。
「轟君夏休み中この時間帯は子供達つれて、隣の学区の小学校に出稽古に行ってるよ?」
「何かアイツが笑顔で子供相手にする姿とか想像デッドゾーンだな…」
「うーん…確かに笑顔はないかな?」
「怖い顔して子供達相手にしてどーすんだ。アイツ教員志望だって聞いたぞ?」
あー、って苦笑いしたシャケは。寝そべってた渡り廊下からようやく起き上がって座ったから。
俺も胸の高さくらいまである渡り廊下によじ登って隣に座った。
「俺も轟君が教育系学部を選んだ時はまさかって思ったよ?でもあの辺りにさ…」
なんて言いながら、寺の境内の植え込みの辺りを指差したシャケは。
「轟君の計画では数年後、こども園が建つ予定」
「こども園?」
「最近『認定こども園』っていう、幼稚園と保育園が一緒になった制度が出来たでしょ。俺が大学卒業して六勝寺の副住職に成る頃、もしかすると轟君は其処の園長になってるからね?」
「そうかぁ…御前等は堅実な将来設計してるんだなぁ」
シャケ兄弟に引き換え、俺は『パイオニアに成る』なんて言いながら本当に自分のやりたい研究が出来るようになるのか未だ道半ばだし。
小野は進むべき道すら見失ってる。
「あーほら。その顔」
シャケがニヤニヤしながら俺のコト隣から揄うように眺めてくる。
「何だよ」
「竹兄がサトリ君の事真剣に心配してる時、いっつもその顔してるんだよねぇ」
「え?」
思わず両手のひらで顔を洗うように拭う。
「どんな顔だよ…、小野に気付かれてねぇだろうなぁ」
不安に成る俺に、シャケは容赦なくトドメを刺してくる。
「解ってるんじゃないの~?他人の俺が気付いちゃうくらいなんだから」
「マジか…」
がっくりと首を垂れて項垂れてたら、バシバシと背中を叩かれた。
「だいじょぶだいじょぶ!!サトリ君は、竹兄の事、凄ーく信用してるからね?」
まさかそのお兄ちゃんとも頼みにしてる竹兄ににちゅーされたり、あまつさえ押し倒されてイタズラされちゃうなんて思ってないからね?
良かったね竹兄。
「良くねェ。――オマエ小野の何を知ってるんだ?」
「だって竹兄忙しいから、最近結構俺サトリ君の相談に乗ってあげてるもん」
「おーまーえー!!!俺の相談には乗れないって言った癖に!」
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