37
隣からシャケのTシャツの襟首掴んだら。
「俺は『煩悩塗れの竹兄の事は』って言ったでしょ。サトリ君の相談は何時も至極マトモだからね。俺だって真剣に考えて回答するよ」
「じゃあ。小野はオマエに何相談したんだ?」
「言える訳無いでしょ。相談受けたコト易々と他人に話す人に、竹兄は自分の秘密を晒せるの?」
「…そうだ、そうだよ」
またシャケに正しい説教喰らって凹む。
「だーいじょうぶ。竹兄が今此処で俺にぶっちゃけたコトだって、サトリ君にバラすコトは無いからね?」
「あーあー。アリガトな」
何でオレはシャケに感謝させられてるんだ?
「って言うか…まさかオマエが相談に乗ったから、小野が大学行くのあっさりやめてバイト始めたんじゃねぇのか」
「――…?」
ニコニコと笑顔でがっちり表情を固めたシャケは。
答えない事が返って『そうです』とバラしてるのがありありと解る。
「オマエこそそんな顔してたらバレバレじゃねえか!!!!」
「え!?嘘何で!?」
「あーもう、余計なコト言いやがって…。俺の居ない間にアイツに変なコト吹き込むなよ?」
「まぁまぁ。そんなカリカリしないでよ竹兄。明日には大学戻っちゃってまた暫くこっちには帰らないんでしょ?」
サトリ君の事遠くから見守ってあげてね。なんて両手を合わせて合掌されたから。
「人を死んだヤツみたいに言うな!!って言うか拝むなッ!」
俺はシャケが合気道三段の有段者なコト忘れて思わず後ろ頭を思い切り平手で叩いた。
夕方神社に戻ると、今日までバイト休みの小野が階段の天辺で腰掛けて街を眺めてた。
自転車担ぐと、気づいた小野が降りてきて。左手引っ張って貰いながら階段を昇り始める。
「どーした小野。こんな処で黄昏れて」
「たそがれてはいないよ?富士山綺麗だなぁって眺めてただけ」
振り返ったら、夕暮れバックにした富士山の黒いシルエットがぼんやり見える。
「おー。何だか今日は滲んでるなあ。オマエホントに景色眺めるの好きだな」
「――好きだよ?」
別に告られてる訳じゃないのに、小野から『好き』なんて言葉を聞かされるだけで動揺する自分がバカだなー。って自嘲する俺に。
「どうしたの?」
苦笑いしてるのがバレて小野に怪訝な顔された。
「邪魔して悪かったな。引き続き存分に眺めてろ」
「竹兄何か怒ってる?」
昨日からずっと変だよ?なんて心配されて。
「別に怒っちゃいねぇよ」
景色眺めるの止めてそのまま俺について階段昇り始めた小野に言い訳をする。
「俺明日大学に戻るから」
「――え?まだ休み残ってるのに?」
俺が居なくなるって聞いて小野が淋しそうな顔するのが嬉しい今日この頃です…なんて。心の中でアテレコしながら。
「オマエ明日からバイトだろ?俺は研究室戻った方が時間も無駄にならないからな」
「竹兄今度いつ帰って来るの?」
「今までみたいに週一くらいで着替えを取りに来る程度だ。平日昼間が多いし、ガッコやバイトしてるオマエに会うコトは殆ど無いなぁ。まあ正月くらいは休むか…って言いたいけど。1月末が卒論の締切だからのんびり寝正月なんて無理だし、2月の発表会の準備して…。めでたく卒業決まっても、3月は修士課程に行く準備して、4月からは教授の小間使い生活の始まりだ。まぁスケジュールは過密だな」
止め処なく流れるように出る言葉はどれも言い訳染みてる。
意図的にそうなった訳じゃあないけど。小野との距離や時間を長く置く事になったことは確かだ。
「そんなガキみたいな顔するなよ」
押してた自転車のハンドルから左手外して、小野の頭を撫でる。
「だって…」
頭を撫でてた左手をぎゅ、って急に小野が両手で掴んでくるから。
「――…っ」
心臓が口から飛び出すかと思った。
悪ふざけで触るなんて今まで沢山あったはずなのに。
良く考えたら、俺から仕掛けたコトはあっても。
こんな風に小野から俺に触ってきた事なんかあったか?
「――『だって』何だ?」
辛うじて平静を装って小野に尋ねたら。
「――俺だって竹兄が家に居ないとつまんない」
預けてる俺の左手をぐにぐにと揉みながら不満を言う小野に。
「電話なら何時でもしろよ。研究室に居る時でも教授が一緒じゃない時なら大概出てやれるから」
「――電話…?」
何だ。足りないのか?
「じゃあ…――研究室に、毎週着替えを届けてくれるか?」
「いいの?」
会う約束したら喜ぶなんて女子みたいな反応する小野に。
「俺が何やってるか見てみたいだろ。まだ自分の部屋はねぇけど――って言うか、御遣いじゃなくてお前も受験して大学生になれよ」
「ソレはヤダ」
即刻却下された俺は。小野に弄り倒されてた左手を取り戻したら。
「言うコト聞け!」
「ヤダっ!」
「このー!」
主導権取り戻すべく、小野の頭に手を置いて乱暴に頭を撫で回した。
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