44
あの後も定期的に大学に俺の着替えを届けに来てた小野が、フィルムの件を切り出す事はなくて。
俺も急かす積りは無かったから、年末のクリスマスの時期も、正月明けて俺の誕生日の時も、まさかのバレンタインの時だってスルーしてやってたけど。
3月に入ったら流石に、どんなに忙しくても触れざるを得なかった。
「おい小野」
何時も通り人の居ないタイミングを見計らって研究室に来てた小野は。俺の問いかけに茶を飲みながらニコニコと笑顔で返事をよこした。
「なに?竹兄」
「オマエってホントに俺のコト好きだよなぁ」
「えっ∑(〃゚Д゚〃)!?」
無防備なトコロに俺が突然妙な台詞をブッこんだから、小野が真っ赤な顔して固まって驚いてる。
「そんな可愛い顔して見詰められたら照れるだろ」
「――…」
否定すればいいのにそうしない処が、やっぱりそうなんだと思わされるけど。
あえて気付かない振りをする。
「――って言うか…俺は毎回お前が来る度に、例のフィルムの件で報告があるんじゃないかと期待してるんですけどね」
「ゴメン… ( 〃..)ノ」
今度は眉尻下げて凄く済まなそうな顔で反省するから。
「そんな可愛い顔して困られたら俺が苛めたみたいだからやめろ。どうした?一枚も撮れてないのか?」
ぶんぶん、と金髪ボブの頭を揺すって必死に否定する小野に、
「好きなモノなんでも撮ればいいだけだろ」
なんて言ったらまたじっと見つめられた。
「――俺以外だぞ」
「えー。o(-Д-;*)」
不満そうに声を挙げるのを制して。
「オマエが俺のコト大好きなのは解ってるから。イチイチ撮って報告しなくてもいい」
「解ったよ…――次来るときに持ってくるから」
だいたい1~2週間に一度のペースで小野は研究室に来てたけど。
「あ、俺来週卒業式だ…。スーツ取りに帰るからその時でいいか。そう言えば、御前自分の卒業式は何時なんだ?」
「明後日」
「卒業おめでとう、いよいよフリースタイルな人生の始まりだな…。オマエ以外は大学行かない奴居るのか?」
「現役合格で進学するのは250人、残り50人は浪人になって…就職予定はゼロ…フリーターは俺だけ」
「小野…良くやったよ。其処まで行けばいっそ清々しいな」
「うん、先生にも言われた。フリーターなんて某都立初だって」
「『初めて』ってのはパイオニアで一人きりってコトだ。まぁ威張っとけ」
『第75回 某都立高等学校 卒業証書授与式』
という校門前の立看板の前で、仲間と並んで最後の制服姿をカメラで撮って行く奴等を眺めながら。
俺もたった4年前はこうだったよなァ…。なんて懐かしく思いながら眺めていたら。
「あ…たけにーO(≧▽≦)O !!」
俺に気付いた小野が、校門を通って駆け寄ってきたから手を挙げて出迎えた。
「――おう。小野、おめでとう」
「有難う!竹兄も来てくれてたんだo(・∇・o)!?」
「まあな…親父殿に頼まれてさ…」
って。首に架けてたシグマを持ち上げた。
「親父殿も母ちゃんも式に出るのに一杯一杯だって言うから。オマエの最後になるかもしれない卒業式を写真に残さない訳に行かないだろ?俺は撮影要員だ」
式の間中ずっと泣いてた母ちゃんと、じっと小野を見守ってた親父殿は写真を撮る余裕なんかあるはずななくて。
自分の卒業式用のスーツ取りに来るなら今日この日にしろと親父殿に厳命されてたから。それを着て何故か俺も小野の卒業式に参加することになって。
結局小野が入場から証書を貰って退場する処まで延々シャッターを切ってた。
「――って言うかオマエ…何でそんなに学ランだらしなく着てるんだ?」
白いシャツに学ランの前開けて引っかけただけの状態の小野に声を掛けたら。
「ココに来るまでにボタン全部取られた(ノ_-。)…」
「ええ!?」
よくよく見れば小野の学ランは前のボタンどころか両袖についてる小さなボタンまで無くなってツルツルの状態だ。
「おいおい、身ぐるみ剥いでくなんて近頃の女子高生は恐ろしいねぇ|||(-_-;)||||…って言うかオマエモテモテじゃねえか!!」
俺も前ボタン幾つか持っていかれたけど。流石に全滅とまでは行かなかった。
「違うよヾ(。`Д´。)ノ!そんなんじゃないよ!?口きいた事ない顔も知らない女子ばっかりで怖かったし。反撃できないし」
何故か必死に否定する小野に。
「男としては威張れるコトだぞ?もしかしたら今がピークかも知れないだろ?取り敢えずその看板の横に並べ。勇姿を収めてやるから」
小野は自分の格好をもう一度見下ろして確認してから。
恥ずかしそうにボタンの無くなった学ランの前をぎゅ、と手で握りこんで合わせた。
「ヤダよ…こんなカッコで撮るの(ノ_-。)」
「オマエその方が返って襲われた後の町娘みたいで恥ずかしいぞ」
「マチムスメ…(≡д≡)?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます