第5話 あれ? 今世も……?
子供は全体に金色でキラキラしていた。そしてその背中には透明な羽がある。
「誰?」
そもそも人なのかどうかも分からないが、言葉を話すなら人に近い生き物だろう。
前世でも今世でもこんな小さな人を見たことがないが、数の少ない種族なのかもしれない。
そう思って声をかけると、子供は悲しそうな顔をした。
「ひどい。僕は君の物なのに」
なんだろう。この捨てられた恋人のようなセリフは。
レナリアは
「君だって僕の物なんだよ!」
そうは言われても、知らないものは知らない。
もしかして前世で関りがあった相手だろうか。
「だって、僕と契約したじゃないか」
契約と言われて、レナリアは思い当たる。
もしかして……。
「あなた、エアリアル?」
「そうだよレナリア。やっと僕の声が届いた」
わーいと喜んで飛んできたエアリアルは、レナリアの周りをくるくると回る。
でもエアリアルといえば姿が見えない精霊ではなかっただろうか。そのせいでハズレ守護精霊とまで呼ばれているはずだ。
「ハズレとかひどい。僕たちの姿が見えないのは、君たちの魔力が低すぎるせいだよ」
精霊の姿はそれぞれ違って見える。
レナリアの父と兄を守護している火の精霊サラマンダーは赤い炎のような姿で、母を守護しているウンディーネは青い雫のような姿をしている。
他の守護精霊も、人型を持っているものはいない。
だからまさか、エアリアルが子供のような姿をしているとは思いも寄らなかった。
「ごめんなさい、エアリアル。……えーっと、もしかして私は魔力が高いの?」
「もちろんさ。僕の姿を見て会話ができるほどの魔力を持ってる人間なんて初めてなんだよ。競り勝って良かったな」
「競り勝つ?」
何か競うような事があっただろうかとレナリアは首を傾げた。
「うん。見えなかった? あ、そうか。僕らと契約するまで、人間には僕たちの姿は見えないんだった」
「そうなの?」
「うん。契約してしばらくするとお互いの魔力が馴染んで姿を見られるようになるんだよ。魔力が大きければ大きいほど、馴染むのに時間がかかるかな」
なるほど。だから洗礼のすぐ後ではなくて、今になってエアリアルの姿を見られるようになったのかとレナリアは納得する。
「それでね、君との契約の時に、僕の他にも精霊たちがわんさか集まってたんだよ。僕以外にもエアリアルがいたけど、僕より力のある存在はなかったからね。すぐに僕に譲ってくれたよ。でも光の精霊はしつこかったなぁ。君が聖魔法を嫌がってなかったら、あいつに取られちゃってたかもしれない」
その時はまだレナリアは前世の記憶を思い出していなかったはずだが、無意識に嫌がっていたのだろうか。
けれども、もし光の精霊が守護精霊になっていたら、今世でも聖女になってしまっただろう。
そうならなくて良かったと、レナリアは心の底から安堵した。
「あれ……。でも、光の精霊もいたって事は、私は聖魔法も使えるという事?」
「もちろん。闇以外なら、全部使えるよ」
レナリアが伸ばした手の平にちょこんと座ったエアリアルがそう言って笑った。
まあ、なんて可愛らしい。
その可愛さにレナリアは思わず微笑んでしまったが、今のエアリアルの言葉はとんでもなく爆弾発言だった。
「待って……。そんなにたくさんの魔法を使える人がいるなんて、聞いた事がないんだけど」
「そうだね。昔は三つくらいならそこそこいたけど、今はみんな魔法の力が弱くなっちゃってるから、無理だろうね」
それでも三つだけなのかとレナリアは遠い目になる。
闇以外を使えるというならば、確実にそれ以上の魔法が使えるという事ではないだろうか。
「魔法の力が弱くなったから、その棒みたいなので増幅してるんだよ。人間が作った道具なのに、レナリアは知らないの?」
「……まだ、これから勉強を始めるのよ」
「そっかぁ。じゃあ分からない事は、何でも僕に聞いていいよ。教えてあげる!」
誇らしげに胸を張るエアリアルは子供のように見えるけれど、きっと本当の年齢はもっとずっと上なのだろう。
レナリアはその言葉に甘えて色々と質問をしてみる事にした。
「エアリアルの姿を見る事はできないって言われていたけど、実は魔力が高ければ見えるのね」
「うん。僕はレナリアと契約したから、君と魔力の近い人には見えるようになったと思うよ」
魔力が近いというのは、家族という意味だろうか?
「ではお父さまとお母さまとお兄さまもあなたを見る事ができるの?」
「そうだね。一度認識すれば大丈夫」
それは良かったとレナリアは思う。
こんなに可愛いから、できれば家族にもこの姿を見せてあげたい。
「普通の人はあなたたちの姿を見る事ができないほど魔力が少ないという話だけど……。でもそれならすぐに死んでしまうんじゃないのかしら?」
聖魔法でなければそれほど魔力の消費は激しくはない。
さっきの魔法くらいなら、一晩眠れば回復する程度だ。
魔力を使うと命を削るというのは、そもそも自然に回復するよりも多い魔力を消費してしまうのが原因だ。
十分な休息と栄養を取っていれば、魔力はわずかに回復する。
だが魔法を使い続けると回復が間に合わなくなり、生命力を代わりに消費してしまうのだ。
でも元々の魔力が少ないというのならば、もしかしたらこの時代の魔法使いは、葉っぱ一枚落とすだけでも命に危険があるのではないだろうか。
「死んでしまう? どうして?」
エアリアルは不思議そうに首を傾げる。
「だって簡単な魔法を使うだけでも、体の中の魔力がなくなってしまうんじゃないかしら」
「体の中の魔力なんて使わないから平気だよ」
「えっ。でも、じゃあどうやって魔法を使うの?」
魔法を使うには魔力が必要だ。
自分の魔力を使わないのだとしたら、一体どうやって魔法を発動させるのだろう。
「だって魔素なんてそこら辺にあるじゃないか」
「魔素?」
「え。魔素も知らないの? だったらどうやってさっき魔法を使ったの?」
「それは、自分の魔力で――」
「えええっ。今頃そんな古いやり方をしてる人間がいるの?」
エアリアルはレナリアの手の平から飛び上がると、目を丸くして驚いた。
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