第74話 リッグル選び
ポール先生が風魔法クラスの生徒たちを連れてリッグル牧場の柵を越えて中に入ると、好奇心旺盛なリッグルたちがたくさん集まってきた。
普通は飼い主のいないリッグルしか集まってこないのだが、なぜか飼い主のいるリッグルも集まってくる。
基本的にリッグルは自分の飼い主に忠誠を誓うので、新入生がリッグルを選びにきても無関心のことが多い。
ポール先生は初めて見る光景に驚いた。
「リッグルがこんなに……?」
今まで何度も生徒のリッグル選びに同行しているが、こんな風にリッグルたちが集まってきたことなど一度もない。
どういうことだろうと首を傾げていると、リッグルたちが一斉に頭を下げた。
レナリアに向かって。
「――え?」
まだ年若く羽の生えそろっていないリッグルだけでなく、明らかに立派な羽を持つリッグルにも頭を下げられて、レナリアはどうしたらいいのか分からない。
助けを求めるようにポール先生や飼育員さんのほうを見るが、みんなただひたすら唖然とするだけだった。
「そうだよね~。みんなレナリアに乗ってもらいたいよね~」
ただ一人だけ、フィルは腕を組んでうんうんと頷いている。
その横でチャムも、フィルの様子を見ながら真似をしている。ただ、腕が短いので、微妙に組めてはいない。
(フィル。どうしてこうなっているのか分かる?)
「ん? だってリッグルは風魔法を使うからね。エアリアルの守護を受けているものが大好きなんだよ」
(風魔法を?)
リッグルが風魔法を使うだなんて、そんな話は聞いたことがない。
というよりも、魔法を使う動物はいない。
魔法を使えるならば、それは魔物というべきだ。
「リッグルは、元々は魔物だったのを人間が飼いならしたんだから、魔法が使えるに決まってるよ」
(だったらリッグルは魔物なの?)
「そりゃそうさ。だってこんなに大きい体で空を飛ぶんだから、風魔法を使わないと無理だよ。鳥なんて見てごらんよ。あんなに小さくて軽い体なのに、羽を広げたら体の何倍もあるでしょ」
確かにそう言われてみればそうかもしれない。
「人間はさ、魔物が全部人間に敵対してる存在だと思ってるけど、そうじゃない魔物もいるんだ。リッグルは基本的に草と大気にある魔素で食事をするから人間を襲う必要はないし、逆においしい草を用意してくれるし、他の魔物から襲われるのを防いでくれるしで、人間と一緒にいるのはいいことずくめなんだよね。たまに乗せてあげないといけないけど、それも楽しいみたいだし。そうやって共存しているうちに、飼いならされたって感じかな」
レナリアに家にもリッグルはいるが、そんな話は初めて聞いた。
何度か父と一緒に乗せてもらったこともあるが、こんな風に頭を下げられたことはない。
「エアリアルの守護を受けてる人間を乗せれば、リッグルもその恩恵を受けるからね。その間は風の魔素を集めやすくなるから、翼も大きくなるんだよ」
「チャムも炎の魔素を集めてあげるー」
「それはダメ。リッグルが燃えちゃうよ」
「えー」
不満そうなチャムだが、そこはレナリアも丁寧にお断りをした。リッグルに乗っているレナリアまで燃えてしまう。
「レナリア燃えちゃダメー。チャムがまんするー」
(いい子ね、チャム)
つるんとしたチャムの頭をなでると、チャムは気持ちよさそうに目をつむった。
フィルも「ん」と言って顔を向けるので、ふわふわの蜂蜜色の髪の毛を優しくなでる。
そうすると、リッグルたちが自分も撫でてくれというように、ぐいぐいとレナリアに向かってきた。
「これは、レナリアさんがどの子か選ばないと収まりそうにないね」
困ったようにポール先生が言う。
他の生徒たちは、飼育員さんたちに誘導されて、いつの間にか柵の外へ避難していた。
「選ぶと言われましても……」
頭を下げるリッグルたちの中には、明らかに大きいものもいる。
既にパートナーがいるのではないだろうか。
だがポール先生の話を聞くと、何らかの事故や病気で選んだリッグルが死んでしまうこともあるため、生徒の数より多く飼育しているのだそうだ。
だから既に空が飛べるほど大きくなってはいても、レナリアに頭を下げているのは、まだパートナーを持っていない個体ばかりだ。
「空を飛ぶとエレメンティアードで失格になってしまうから、羽の小さいリッグルを選ばないとだめだよ」
「分かりました、先生」
レナリアはそう答えたが、たくさんいるリッグルの中で、どの子を選べばいいのか分からない。
そういえば、ポール先生はエアリアルに教えてもらえばいいとおっしゃっていたわ。
さっきのポール先生の言葉を思い出したレナリアは、フィルにどのリッグルがお勧めか聞いてみることにした。
「ねえ、フィル。あなたのお勧めのリッグルがどの子か、教えてくれるかしら?」
「もちろん!」
レナリアに頼られたフィルは、背中の羽を七色に輝かせながらリッグルたちを見回した。
そして牧場の端にいる、小さなリッグルを指差す。
「ボク、あの子がいいと思う」
そこにいたのは、どのリッグルよりも小さくて、真っ白な羽毛に包まれた雛だった。
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