第98話 ロイドたちへの処分

「では霧の聖女に関しては、両親にも説明をしておきます。あとはロイド・クラフト、ダニエル・マクロイ、アンジェ・パーカーの三名への処分についてですが、現状ではどうなっていますか?」

「現在、学園長を含めた職員たちの間で話し合っている。学園で不用意に攻撃魔法を使ったということで、少なくとも停学は免れまい。ただ被害を受けたのがリッグルということで、退学にするのは難しい」


 レオナルドの言葉に、アーサーは眉をひそめた。


「あのアンジェという娘には、レナリアがずっと迷惑をしているんですけれどね」

「そうらしいな。怖いもの知らずというか何というか……。よく自分が暮らしている領主の娘をおとしめようと思うな。理解できん。聖女候補ということで舞い上がっているにしても、かなり性質が悪い。ただリッグルを実際に傷つけたのはダニエル・マクロイだけだから、退学にするとしても、ダニエル一人だけだな」

「トカゲのしっぽ切りか」

「ダニエルはお前と火魔法クラスで一緒なんだろう? どんなヤツだ?」


 そういえば、と、レナリアはダニエルがアーサーと同じ紫色のリボンをしていたのを思い出した。同じ学年なのだから、レオナルドの言う通り属性クラスで共に学んでいるはずだ。


「いつも人の顔色を窺っているような性格ですね。確かクラフト家は教皇派だったはずだから、ロイドに強く言われて断れなかったんでしょう。だからといって許せるはずもないですが。……ここは退学にさせるよりも恩を着せて、こちらの役に立ってもらいましょう」

「今回の件を逆手に取るか」


 アーサーの提案に、レオナルドも賛成する。


「ロイドたちの停学はどれくらいになる予定ですか? エレメンティアードへの参加は?」


 一か月後に行われるエレメンティアードは、学園をあげての一大行事だ。

 アーサーはその時にまたロイドたちにわずらわされたくはないと確認を取る。


「そちらもまだ決定ではないが……。停学の期間が開けたとしても、エレメンティアードへの参加はできないように、王家とシェリダン家で要望を出そう」

「承知しました。父にも伝えておきます」


 いきなりリッグルに火をつけようとする奴らだ。今回のことでレナリアに反感を覚えて、エレメンティアードに乗じて仕返しをしようなどと計画されてはたまらない。


 実行犯のダニエルも個人競技となる今年のエレメンティアードに参加できないのはかなりのダメージだろう。


 卒業後どこに勤めるにせよ、エレメンティアードの個人順位によって待遇が左右されることも多いからだ。


 停学で参加できなかったとなれば、閑職に回される可能性が高い。


「追い込み過ぎても役に立たないだろうから、飴を用意しておくか」


 アーサーは小さく呟く。


 ある程度本人の望む進路を用意しておかなければならない。

 もっとも、それを手にできるかどうかは、これからのダニエルの働きによるのだが。


「ああ、それから、なぜか三人とも魔法が使えなくなっているらしい」

「魔法が?」


 レオナルドの言葉に、アーサーが驚く。セシルは既に聞いていたのか、驚く様子はない。


 そういえばフィルが風のシールドを張って魔法が使えないようにしたと言っていたが、あまりにも色んなことが起こりすぎて、レナリアはうっかりアーサーに報告するのを忘れてしまっていた。


 ちらりと横に座るアーサーに視線を向けると、どうしてそんな大切なことを言わなかったのかなという無言の圧力を感じた。


 後でまた話し合いが必要になりそうだ。


「元々あのアンジェという娘はろくに魔法が使えなかったらしいが、ダニエルとロイドはかなりショックを受けているらしいぞ。それになぜか髪の毛の処理もできないらしい。……もしかしてアーサーもその場にいたのか?」


 ロイドたちの髪の毛を燃やしたのは火魔法だ。

 だがあの場に火魔法の使い手は、髪の毛を燃やされたダニエル一人しかいなかった。


 さすがにレナリアのエアリアルがサラマンダーまで従えているとは思わないレオナルドは、アーサーの関与を疑った。


 アーサーはただ肩をすくめるだけで、返事をしない。


 セシルもあの場にいたはずなのに、否定も肯定もしないことから、レオナルドは自分の考えが正しいのだと信じた。


「さすがアーサーだな! なんでも回復魔力が効かないだけでなく、なぜか固くなって切ることができず、しばらくは燃やされた髪のままらしい。一体どうやったんだ?」

「さてね」

「秘密というわけか。……いいだろう。だがそのうち教えてもらうぞ」


 レオナルドは再びスミレの砂糖漬けを手に取り、さっきと同じ場所に投げた。

 だが砂糖で包まれた紫色の蕾は、そのままコロコロとマホガニーのテーブルの上を転がっていく。


 レオナルドは立ち上がって手を伸ばすと、レナリアの前まで転がってきた砂糖漬けを手でつまんでひょいと口に入れた。


「行儀が悪いぞ、レオナルド」

「兄上……」

「もうシャインはいなくなってしまったのか。残念だ」


 非難するアーサーとセシルを無視して再び席についたレオナルドは、「伝説の魔道具ができるのが楽しみだ」と笑った。


 レナリアは聖女にならないためにもがんばって魔道具を作らなくてはと思って、ふと我に返った。


 ……おかしい。

 聖女にならないために学園では手を抜くはずだったのに、なぜかがんばるという話になってしまっている。


 いや、でも、聖女にはなりたくないのだから、ここで手は抜けない。

 これからも聖女にならないために全力でがんばろう。


 よきよき、とレナリアは心の中で呟いた。


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