第7話

「オースティン侯爵家から賠償金が届いたよ。

 支援金も全部返してきた。

 今回の件で出た利益などドブに捨てたいが、金に罪はない。

 ヴィヴの資金にするがいい」


 婚約破棄騒動から三日後、父がそう言ってきました。

 一旦財政が立て直されたとは言え、三日で全額返済は難しいと思います。

 でもそうするしかなかったのでしょう。

 王太子殿下の逆鱗に触れ、あれほど多くの貴族士族の前で叱責されたのです。

 ですが、ブリーレのあの眼が気になります。


「クリスチャン様とブリーレ嬢の処分はどうなりました?」


 私や父に恨みを向けるならいいのですが、王太子殿下に向けられては困ります。

 私を助けた事で、王太子殿下に害が及ぶなど耐えられません。

 王太子殿下はレナードの戦友だと聞いています。

 恐れ多い事ですが、王太子殿下自身が友だと口にされたそうです。

 そんな王太子殿下を危険に晒すわけにはいきません。

 だから二人の処分は聞いておかないといけません。


「クリスチャン様は廃嫡となられた。

 オースティン侯爵家の家督は、ご次男が継がれるそうだ。

 オースティン侯爵も番いの呪いは理解されているのだろう。

 番いを夫婦にしてやりたいのは、獣人共通の願いだと聞くが、その為に侯爵家を潰すほど愚かではないのだろう」


 廃嫡ですか。

 あの様子では仕方のない事でしょう。

 問題は二人がどこにいるかです。

 帝都に残って自由に振る舞えるのなら、王太子殿下の弑逆を謀るかもしれません。

 特にブリーレの事は確認しておかないといけません。


「ブリーレ嬢の事が気になるのです。

 あの眼は謀叛人の眼です。

 家によく来る恩知らずと同じ眼をしています。

 王太子殿下に何かあれば、恩を仇で返すも同然です。

 父上も助けてくれませんか?」


「分かった。

 そう言う事なら二人の事が気になるのも分かる。

 俺の力が及ぶ限りの手を打とう。

 クリスチャン様は辺境の飛び地に送られるそうだ。

 ブリーレ嬢の事は気にしていなかったが、手の者を使って調べさせよう。

 必要ならあらゆる手を使って王太子殿下を御護りする。

 だからもう気にするな」


 さすが父です。

 クリスチャン様とブリーレ嬢の暗殺まで覚悟されたようです。

 ですがそれはやり過ぎでございます。

 父が下手を打つとは思いませんが、情報さえ掴んでいれば、事前に取り押さえる事も可能でしょう。


「父上。

 王太子殿下なら、ブリーレ嬢の眼つきなど気が付いておられると思います。

 家が勝手に動くのは、殿下の御心に逆らう事になるかもしれません。

 万が一のことを考えて、事の子細を文にして、レナードに送ろうと思います。

 後の策は、デリラに謀ってはどうでしょうか?」


 

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