第52話

「ミースロッド公爵家に出す最低の条件は、男爵位以上の従属爵位をハント男爵に与えること。

 ハント男爵家が失った領地に匹敵する領地を保証する事です」


「ふむ。

 ……俺とヴィヴィアンの間に生まれた子供ではなく、ハント男爵にと言う事だな。

 だが領地は、失ったという言い方をしているな、俺やミースロッド公爵家が援軍を出して確保している間は、補填の領地はいらぬというのだな」


「はい。

 失ってもいない領地を保証補填しろとは申しません。

 ですが、援軍に対して傭兵料や兵糧は支払えません。

 ハント男爵家自体が帝国軍との戦争で大変ですから」


「ふん。

 そんな事は理解している。

 そうなると、問題は従属爵位だけと言う事か。

 父上が認めてくださるかどうか……」


 これは、我が家の最低条件は認められますね。

 一安心と言うところですね。

 ですが、本当の願いは、一年間時間を稼いで、レナードが奮起してドルイガに勝ってくれる事です。

 レナードには幼い頃からの情愛があります。

 強力な戦闘力と誠実な性格が同居した、類稀な結婚相手なのです。

 貴族の結婚相手としては、これ以上の相手はいません。


「レナード殿。

 私は強く願います。

 まずは皇帝陛下にハント男爵家の願いを奏上して来てください。

 全てはそれからの話です。

 話だけ聞いて、実際には奏上もしない、本気で交渉もしないような、不誠実な相手と結婚など出来ません。

 ドルイガ殿よりは弱いですが、レナードは帝国一の戦士です。

 夫としてもとても誠実な人でした。

 そんな人に私は離婚を突き付けたのです。

 私に結婚を申し込むのなら、誠意を示して下さい。

 私はドルイガ殿に皇帝陛下と交渉する事を強く願います。

 いえ、ドルイガ殿に結婚を申し込まれた女として、ドルイガ殿に皇帝陛下と交渉する事を命じます!」

 

 さて、ドルイガ殿はどう動きますか?

 命令された事に怒りますか?

 番いとして、逆に私に命じますか?

 その命令に私は従ってしまうのでしょうか?

 私がドルイガの命令に従いそうになった時には、父上や母上が遠隔転移魔法を発動して下さる予定ですが、私がそれに抵抗してしまうかもしれません。


 可能性は極端に低いですが、私が番いの呪いにかかるかもしれません。

 いえ、そんな事は有り得ないですね。

 番いの呪いにかかるのは獣人だけのはずです。

 私がドルイガに呪縛されることはないのに、ドルイガは私に呪縛される可能性があります。

 獣人とは可哀想な生き物かもしれません。


「……分かった。

 皇帝陛下に奏上して、爵位と領地がもらえるように交渉しよう。

 だが期限を設けてくれ。

 皇帝陛下との交渉だけで一年は長すぎる。

 結婚の一年は我慢するが、ハント男爵家を味方に加えるのはもっと早い方がいい。

 皇帝陛下との交渉を諦めて、親父との交渉器切り替える時期を決めてくれ!」


 どうしましょう?

 これは、番いの呪いにかかっていると判断すべきなのでしょうか?

 それとも通常の交渉だと判断すべきなのでしょうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る