第38話ドルイガ視点

 俺は誇り高い戦士なので、主君を裏切るような腐れ外道は許せない。

 主君が逃げた場所を敵に教えるような奴は殺すべきだ。

 だが同時に、約束を破るのも好きではない。

 念のため、複数の生き残ったヴィヴィアンの家の家臣から、ヴィヴィアンの逃げた場所を質問した。


 そこで俺は確信した。

 ヴィヴィアンの家は、いや、ハント男爵家では、家臣を助けるために、逃げた可能性のある場所を襲撃者に教えろと、積極的に勧めているのだと。

 それは家臣を助けることはもちろん、家臣の忠誠心を得る事にも、襲撃者を疑心暗鬼にする策謀にもなる。


 正直俺は神に感謝した。

 オースティン侯爵家のクリスチャンに比べれば、俺は番いにも番いの家族にも恵まれている。

 そんな番いや番いの家族に蔑まれるのは耐えられない。

 だから約束通り家臣は見逃してやった。


 だが困ったのも確かだ。

 家臣達から聞いた逃げ場所以外に、本当の隠れ家がある可能性が高い。

 しかしそれが絶対かといえば、裏をかいて家臣が話した場所に隠れ家がある可能性も少しはある。

 確実にヴィヴィアンを手に入れる為には、可能性のある場所全てを襲撃し、同時に新たな情報も収集しなければならない。


 それでも、命を賭けて探すしかない。

 それでなくても、巡り合える可能性が低い番いなのだ。

 それが本人も家族も尊敬できる素晴らしい相手であるなど、天文学的に可能性が低いのだ。

 そんな番いに出会えたのだから、絶対にあきらめない。

 なにがなんでも探し出し、生きて手に入れてみせる。

 非常に難しい事だとは分かっているが、俺ならばできる!


「ハント男爵家の情報を集めろ。

 少しでもかかわりのある人間、土地の情報を集めろ。

 そして俺に知らせろ。

 なんとしてもヴィヴィアンを手に入れる!」


「……分かりました」


 モラレス帝国の獣人貴族が心底困惑しているのが分かった。

 まあ、それも当然だろう。

 クリスチャンとブリーレの番いの呪いで、彼らはここまで追い込まれたのだ。

 それを救ってほしくて、我がミースロッド公爵家に助けを求めたのだ。

 それが、事もあろうに、助けに来たはずの俺が、番いに出会って暴走しているのだから、困惑するなと言う方がむりな話だ。


 だが彼らに勝手に動かれる、とヴィヴィアンを手に入れられる可能性が低くなる。

 だから一番力を持っていた、人象獣人の侯爵家を見せしめに皆殺しにした。

 他の獣人貴族が絶対に裏切らないように脅しをかけた。

 同時に懐柔のために、同盟を約束する誓約書を書き、ミースロッド公爵家の庇護下に置くと誓った。


 後で父が反故にして、わしの名声が地に落ちようと、ミースロッド公爵家の後継者から外されようと、全然かまわない。

 ヴィヴィアンを手に入れられるのなら、全てを失っても構わない。

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