第37話ドルイガ視点

 非常に危険だ!

 レナードと王太子だけなら何とか互角に戦える。

 最初から連携を計算しておけば、少なくとも負けることはない。

 だが、相手は歴戦の戦士だ。

 一対一や一対二に拘る事なく、全戦力を投じて攻撃を仕掛けてくるだろう。


 余りに実力差の有る者が組んで攻撃してきたら、むしろ攻撃に隙が出て、反撃する俺の方が有利になる。

 こんな事は歴戦の戦士なら、才能が伴わない弱兵だって知っている。

 どれほど努力しても、強くなれない者がいる。

 戦陣を重ねた弱兵は分を弁えて己の出来る事をする。


 王太子に付き従う騎士ならば、分に応じた戦い方ができるはずだ。

 そんな連中が二人を支援したら、流石に俺でも厳しい。

 ゲリラ戦で相手の戦力を消耗させることは可能でも、真正面から戦うのは無理だ。

 まあ、そもそも、真正面から戦う必要などない。

 真正面どころか、戦う必要すらない。


 ヴィヴィアンを手に入れる!

 その一点だけを考えればいい。

 帝国の獣人貴族の事など知った事か!

 ヴィヴィアンを手に入れるためならば、利用出来るモノは全て利用する。

 邪魔するなら、父であろうと皇帝であろうと殺すだけだ。


 ケガや体力の消耗を魔法薬で治し、レナード達が追撃してくる前にヴィヴィアンの屋敷を襲った。

 なる振り構わない強襲だ!

 魔法を使って逃げられないように、時間との勝負だ!

 回復の魔法薬を左右の口に含み、負傷すればそれを噛み潰して身体を回復させる。

 戦場や魔境での強硬策をとってでも、ヴィヴィアンを手に入れる。


 やれると思っていた。

 厳重な防御魔法陣が幾重にもかけられていたが、俺が負傷を恐れず突っ込めば、逃げる時間を与えずにヴィヴィアンを確保できると確信していた。

 だが失敗してしまった。


 いったいどれほどの財力をつぎ込んだのかと、呆れるくらいの防御魔法と反撃魔法が、十重二十重と仕掛けられていた。

 余りの反撃の多さに、最初に口の左右に準備していた回復薬では足らず、新たな回復役を口に含まなければいいけないほどだった。

 嗅覚に任せれば、番いのヴィヴィアンの居場所なら直ぐに分かると思っていたが、それすら罠に利用しているとは思ってもいなかった。

 結局、ヴィヴィアンに逃げられてしまった!


「おい!

 ヴィヴィアンが何処に逃げたか教えろ!

 話せば命は助けてやる。

 だが話さねば、生まれてきた事を後悔するほどの拷問にかけてやるぞ!」


「分かった、話す。

 だが、我ら家臣には隠れ場は教えられていないのだ。

 家族以外は隠れ家を知らないのだ。

 だが可能性のある場所は知っている。

 それを教えるから助けてくれ」


 嘘ではないな。

 これほど厳重な警戒をする相手だ。

 家臣に隠れ家を話す訳がない。


「分かった。

 知っている範囲でいい。

 話せば助けてやる」

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