第4話

「クリスチャン様は、帝国を蔑ろになされるのですか?!」


「いや、それは……」


「お黙り!

 クリスチャン様に直接口を利くなど不遜極まりない! 

 男爵令嬢の分際で、言葉も掛けられていないのに、侯爵公子に話しかけるなんて、なんて礼儀知らずなんでしょう。

 そう思われませんか、みなさん」


 これはいけません。

 爵位による会話のルールでは、下位貴族から上位貴族に話しかけるのは違反です。

 まあ、本当に親しい間では何の問題もありませんが、今のクリスチャン様と私では難しいです。

 ブリーレ嬢がいなければ何の問題もないでしょうが、今は絶対に表沙汰にされてしまいます。


「ブリーレ嬢こそ黙った方がいいのではありませんか?

 皆様はどう思われますか?

 特に獣人の方々はどう思われますか?

 番いは獣人の方々にとって、絶対の幸運であると同時に呪いだと聞いております。

 将来帝国の重臣となられるクリスチャン様が、番いの影響でここまでブリーレ嬢の言いなりになっている事に、危惧と恐怖を感じられませんか?!」


 口に出してしまいました。

 ですが帝国の男爵令嬢として、この危惧は、皆に知っていてもらわなければなりません。

 問題はここにいるのが未熟な学生ばかりだという事です。

 この危険をどこまで真剣に受けとってくれるか?


「えぇぇぇい!

 このような礼儀知らずは産まれて初めて見ました!

 キッチリと礼儀を教えて差し上げなさい!」


 言葉で勝てないとみて、暴力に訴えてきましたか。

 これは困りました。

 護身術を学んでいない訳ではありませんが、私程度の腕では、複数の大型肉食獣人相手は厳しいでしょう。

 味方してくれる人もいないですしね。


「俺たちにまかしてください。

 クリスチャン様。

 ブリーレ様。

 礼儀知らずの偽男爵令嬢に、キッチリと礼儀を叩き込んでやりますよ」


 あらあら、はめられたのかもしれません。

 これほど素早く暴力に訴える人間が現れるという事は、最初からこいつらを準備していた可能性があります。

 人虎種と人豹種と人大豚種が八人ですか。

 絶対に勝てませんね。


 絶体絶命です!

 あら?

 ブリーレ嬢の表情が愉悦の笑みを浮かべています!

 事故に見せかけて私を殺すつもりかもしれません。

 つい言い過ぎる私の性格が災いしてしまいました!


「止めんか!

 非道にも程があるぞ!

 このような祝いの場で婚約破棄を宣言し、賠償金の踏み倒しを公言し、爵位を笠に裁判にも応じないだと?!

 それで正義のオースティン侯爵家を名乗るなど片腹痛い。

 ヴィヴィアンの言う通り、詐欺のオースティン侯爵家を名乗るがよい!

 分かったか!

 クリスチャン!

 ブリーレ!」


「殿下?」

「王太子殿下だ!」

「何で王太子殿下がこのような場に?!」

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