第5話王太子視点
余は帝国の王太子だ。
色々問題のある帝国だから、命を全うしようと思うなら、身辺警護の兵を厳重にするのはもちろん、自分自身を鍛える必要があった。
その努力と才能が共鳴して、十二歳で聖騎士と認定された。
まあ、余を事故死させようとする者たちの陰謀でもあったが。
弱冠十二歳で帝国軍を率い、大魔窟の魔獣討伐に向かう事になった。
余を事故死させようという陰謀の一環だったが、そこで莫逆の友と言える戦友を得る事ができた。
余と同じように十二歳で才能を開花させ、騎士見習いとして従軍していた、レナードと言う男爵家の次男坊だ。
没落寸前の貧乏男爵家の次男では、軍に志願して騎士に任じられるのが最大の目標だろう。
レナードのような貴族士族の部屋住みは、掃いて捨てるほどいた。
王太子の余と戦友になる事で、近衛騎士や近衛兵になろうと、多くの部屋住みが志願してきていた。
余も帝国も、軍資金を使わずに多くの兵を集めたかったので、志願を許可した。
それがいけなかったのだろう。
余を暗殺しようと企む者まで紛れ込ませてしまった。
その者たちは、魔獣の群れが襲い掛かって来た時に余の周りから逃げ去り、余を事故死させようとした。
レナードがいなければ、余はあの場で喰い殺されていただろう。
それほどの危機だった。
だがあの場には、信じられないほど巨大な斬馬刀を振るうレナードがいた。
聖騎士と認められるほどの余がいた。
余とレナードは最高のペアだった。
二人で襲い来る魔獣を全て屠り、忠義の者たちが集まるまで、魔獣の侵攻を押しとどめた。
二人で逃げた者たちを捕縛し、黒幕の名を吐かせた。
もちろん拷問は専門の者に任せた。
そして二人で奸臣を討ち取った。
余は直ぐにレナードを帝国近衛騎士に推挙し、王太子親衛騎士の役目を与えた。
それから二人で数々の戦場を駆け抜けた。
時に肩を並べて戦った。
三度目の魔獣暴走を押しとどめた時は、互いに背中を任せて、獅子奮迅に戦いをした。
命懸けの戦友は数多くいるが、レナードほど信頼できる者はいない。
そんな彼にも、たった一つだけ弱みがある。
幼い頃から片思いの女性がいるのだ。
その女性を妻に迎えるために、命懸けで戦ってきたと言うのだ。
正直少々焼ける。
嘘でもいいから、余に忠誠を尽くすために戦ってきたと言って欲しかった。
まあ、そんな武張った漢だからこそ、あらゆる誘惑をはねつけ、余に忠誠を尽くしてくれているのだ。
そんなレナードが、大魔窟を見張る一代辺境伯に任じられ、王都を離れる時に余に願ったのだ。
ヴィヴィアン男爵令嬢を護って欲しいと!
あの誇り高いレナードが、地に頭を着けんばかりにして頼んだのだ。
ヴィヴィアン男爵令嬢を護って欲しいと!
侯爵公子と婚約しており、絶対に自分の妻に迎えられないのに。
それでも、報われない恋に殉じて願うのだ。
ヴィヴィアン男爵令嬢を護って欲しいと!
それを、この軟弱鹿野郎と豚女は、このような公衆の面前で大恥をかかしたばかりか、暴力を振るって殺そうとしている。
絶対に許さん!
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