第26話ドルイガ視点

 こんな事になるとは毛頭考えていなかった。

 戦う事は大好きだったが、国や領地の存亡を賭けて戦おうとは思っていなかった。

 帝国のオースティン侯爵家が、番いの呪いで愚かな行動をしたと聞いた時も、惰弱だからだと馬鹿にしただけだった。

 自分ならば、番いが現れても、心を律する事ができると思っていた。

 獣人種の中でも、人虎種は男女の愛情が希薄な種族だから、人赤鹿種のような事にはならないと高をくくっていたのだ。


 だがそれは大きな間違いだった。

 番いの呪いを軽く考えてしまっていた。

 帝国の獣人貴族を助け、徐々に帝国内の影響力を強める心算だった父上は、俺を帝国に送り込んだ。

 俺も帝国を見てみたかったから、望むところだった。

 武人ならば、戦場になるかもしれない場所の地理に通じていなければならない。


 俺の時代に帝都にまで攻め込める機会があるとは思えないが、地図に書いて残す事はできる。

 随行の人間を草として永住させる方法もある。

 貸しを作った帝国獣人貴族家の家臣にする方法もある。

 何より帝国獣人貴族が皇国獣人貴族の俺を案内すると言うのが痛快だ。

 生き残るためとはいえ、下劣な連中だ。

 だがそいつらが帝王に会わせてくれるのだから、馬鹿にしている事を表情に出す事はできない。


 純粋に政治的軍事的な理由で帝都にやって来た俺だから、オースティン侯爵家の反乱には興味があった。

 実際には人大豚種の女に操られていたと言う事だが、俺には当てはまらない。

 だが、俺が謀叛を起こす立場だった場合、どうやったら成功に導く事ができたかが知りたかった。

 成功がおぼつかない場合は、隠忍自重するには誰に取り入ればいいのかも調べたかった。


 だがその考えが悪かった。

 謀反の事など考えずに、獣人貴族が処分されないように帝王に会い、獣人貴族に恩を売り、帝王と顔つなぎする事だけを考えていればよかった。

 それが、戦場跡を巡っていると、逆らい難いフェロモンを感じてしまった!

 そのフェロモンを感じた途端、他に何も手がつかなくなった。

 帝国獣人貴族を助けるために来たのに、そんな事などどうでもよくなってしまった。


 助けるはずの獣人貴族を脅し、各戦場にいたであろう女を調べさせた。

 フェロモンから人種であるのは分かっていた。

 学校だけなら数を絞るのは難しかっただろうが、多くの戦場にフェロモンが残っていたので、候補者の数は一気に絞られた。

 だが相手が悪かった。

 一人はレナード辺境伯の夫人ヴィヴィアンで、すでに結婚しているので普通の方法で手に入れるのは無理だった。


 他の候補者は王太子親衛騎士で、今は大魔境遠征に従軍していると言う。

 湧き上がる独占欲が、ヴィヴィアンに会いに行って確かめろと俺を責める。

 実際屋敷近くにまで行ってみたが、屋敷の守りは鉄壁で、命を賭けても成功させるのは至難の業だと分かった。

 だから我慢できたのだろう。

 そうでなければその場で番いの相手か確認しに屋敷に押し入っていただろう。

 何とかそれだけは我慢して、獣人貴族を脅かし、強気の交渉を帝国と行い、王太子親衛騎士が遠征から帰ってくるように仕組んだ。

 

 

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