第27話レナード視点

 思い出すのも嫌な視線、感覚だった。

 クリスチャンとブリーレの事を思い出す、粘ついた執着と恨み妬み。

 明らかに番いの呪いに囚われたモノの、狂気を感じさせる視線だった。

 俺は反射的に動いた。

 王太子殿下に相談もしなかった。

 その時は王太子親衛騎士団の女性騎士も、ドルイガの番い候補だとは考えもしていなかった。


 ドルイガはヴィヴィを狙っているのだとしか思えなかった。

 だから邪魔な俺を殺そうとしているのだと思った。

 どれほど帝王陛下が愚劣でも、俺の妻をドルイガに与える事などできない。

 もし与えるなどとふざけた事を言ったら、この手でぶち殺してやる。

 ドルイガもさすがにそんな事は口にしない。

 だが未亡人なら別だ。

 未亡人になったヴィヴィになら、帝王の権限でドルイガの妻になれと詰め寄る事は可能だ。


 その事はドルイガも理解しているだろう。

 番いの呪いに囚われたモノは、正気と狂気のはざまにいる。

 一旦番いになれば、強い方の言いなりになるが、見つけただけで番いになれない間は、狂乱状態で番いを得ようとあらゆる方法を取る。

 クリスチャンとブリーレの一件以来色々調べたから間違いない。


 そんな事を一瞬で考えた俺は、斬馬刀を構えてただひたすら真直ぐにドルイガの潜む場所に斬り込んだ。

 だが相手も伝説のミースロッド公爵家の公子だ。

 方天戟でがっちりと受け止めやがった!

 総鉄作りなのだろう、柄の部分が木製ならば、へし折るか断ち切ってやったのに!


 一撃二撃三撃と、息もつかない猛攻を十数回叩き込んでやったのに、人虎種特有の強靭な筋力と柔軟性で全て受け止めやがった!

 このまま無理な攻撃をすれば、大きく息をつがなければならなくなる。

 その瞬間に激烈な反撃をしてくるだろう。

 それでは斬り殺される可能性がある。

 俺が死んだら、この糞野郎にヴィヴィが奪われてしまう。


 そう思った瞬間、怒りと共にとてつもない力が湧きあがって来た!

 ほんの少しためを大きくとり、ほんのわずかな隙を作って誘う。

 ドルイドが乗ってきたら、怒りの力を乗せた必殺の一撃を叩き込む!

 だが、ドルイドはそれほど簡単な相手ではなかった。

 誘いに乗らず、逆に防御の構えを捕りやがった。

 このまま普通に攻撃したら、こちらが大きな隙を作ってしまう。

 絶対にヴィヴィは渡さん!


 ドルイガの持つ方天戟に怒りの一撃を叩きつける。

 相手が総鉄作りの武器であろうが、叩き折る!

 折れないまでも、変形させてやる!

 そうすれば、ドルイドの反撃は重心が狂った武器での一撃になる。

 そんなモノなら避ける事も受け止める事も簡単だ。

 避けて受けて隙を見つけて、必ず殺す!

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