第45話王太子視点

 馬鹿どもが罠に喰い付いた。

 余が帝王陛下に提案した策が認められ、愚弟と後見人達がその策に乗って来た。

 欲に眼が眩んだ愚か者達だ。

 帝国に仇名すドルイガ討伐の功績によって、王太子の地位を改めるという帝王陛下の言葉を真に受けて、皇国に攻め込んだのだ。


 我が父である帝王陛下は、決して愚か者ではない。

 今が帝国存亡の危機だと認識されている。

 だが同時に、無暗にドルイガを殺そうとしても、ミースロッド公爵家に攻め込んでも、大損害を被るだけで勝ち目がない事も理解されていた。


 だからドルイガが帝国に侵入して破壊活動をしていることを名目に、正式にアリステラ皇国に宣戦布告をして、戦争準備ができていない皇国に攻め込むことになった。

 今なら完全に奇襲が成功する。

 宣戦布告もなしに先に攻撃してきたのはアリステラ皇国だ。

 まず間違いなくドルイガの独断で、ミースロッド公爵すら知らない事だろう。

 だがそんな事は言い訳にならない。

 アリステラ皇国一有名で強力なミースロッド公爵の次期当主が、帝国の貴族屋敷を襲い、また別の獣人貴族を皆殺しにしたのだ。


「エゼキエル。

 帝国は勝てるのか?」


「それは分かりません。

 ですが何もしなければ、帝国は確実に滅びます。

 その事は何度も御話ししました。

 帝王陛下も理解してくださったではありませんか」


「理解しておる。

 納得もしておる。

 これは不安を紛らわすための単なる愚痴だ。

 愚かな王子達はもちろんだが、廷臣や貴族の前では、不安な顔を見せる訳にはいかんからな」


 まあ、確かに、帝王陛下の肩に帝国は重いだろうな。

 なまじ責任感が強く、それなりに賢明な御方だ。

 帝国の民の生活と命を預かっているという重圧は、帝王陛下の精神と命を確実に蝕んでいる。


 これまでは、レナードと少しでも長く一緒にいたくて、帝王陛下の苦しみを見てみぬ振りしてきた。

 歴代の帝王陛下が、崩御までその責任と苦しみに耐えてこられた。

 だから協力するような事はしてこなかった。

 だが、皇国と開戦するような苦しい決断をさせてしまった以上、多少は責任と重圧を代わってあげるしかないのかな?


「帝王陛下。

 陛下が望まれるのでしたら、責任の一部を肩代わり致しましょうか?

 野心が過ぎる、獅子身中の虫共が死んでくれたら、摂政の地位に就き、皇国との戦争は全責任を負っても構いませんが、それで宜しですか?」


「なに?

 本当か!

 戦争の全責任を背負ってくれるのか?」


「はい。

 ただ、今の状態で王太子位を争う内紛を起こす訳には参りません。

 愚弟の半数とその後見人は、一緒に死んでもらわなければなりません。

 それでも宜しいですか?」


「……構わん。

 奴らの愚行で、多くの民が苦しみ死んでいった。

 我が子がかわいくない訳ではないが、帝王の責任の方が重い。

 必要なだけ殺せ。

 だが忘れるな、エゼキエル。

 お前も我が子を殺さねばならなくなる時が来るかもしれんぞ」


「忘れません。

 決して忘れません。

 父上に子殺しを強要した事。

 自分も子殺しをすると父上に約束した事。

 天の神々に誓って忘れません」

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