第44話レナード視点

 王太子殿下は各所に使い魔伝令を送り、兵力を集められた。

 集めた上で、弟君と後ろ盾に圧力をかけられた。

 その時には、御自身の配下に集めさせた情報と共に、デリラからもたらされた情報も活用されていた。

 もたらされたとはいっても、あのデリラが何の見返りもなく大切な情報を渡すはずもなく、情報の交換という形だった。


「もう少し動きを滑らかにできないか?

 これではドルイガの攻撃に一歩遅れてしまう」


「分かりました。

 ですが滑らかを追及すると、硬度が足らなくなって鎧の意味をなしません。

 鍛錬を重ねる事で、ギリギリの摩耗精度を創り出してください」


「分かった」


 ヴィヴィを失うかもしれないという、焦りと恐怖が全くなくなったわけではない。

 それは今も心を蝕んでいる。

 特に恐れているのが、ヴィヴィがドルイガに魅かれる事だ。

 俺だって馬鹿でも朴念仁でもないのだ。

 ヴィヴィが俺に恋していないことくらい、泣きたくなるくらい分かっている。

 ヴィヴィが俺に持ってくれているのは、幼馴染の情と、貴族の結婚による貞操の義務だけだ。


 もし、生まれて初めて、ヴィヴィが恋心を抱いてしまったら?

 ドルイガという、当代無双の英雄に出会って、恋を知ってしまったら?

 俺は、正常な心を保っていられるだろうか?

 ヴィヴィがクリスチャンと婚約した時は、それが家のためであり、貴族の義務として仕方なく婚約したモノだと分かっていた。

 ヴィヴィがクリスチャンを愛していないことが分かっていた。

 だから、狂気に囚われることなく、平静を装っていられた。


 だが、もし、ヴィヴィがドルイガを愛してしまったら、俺はドルイガを恨み憎むだけで済ませられるのだろうか?

 嫉妬と絶望で、ヴィヴィまで恨み憎んでしまいのではないだろうか?

 ドルイガを殺す事ができないからと、ヴィヴィに刃を向けてしまうのではないか?

 それが、それが恐ろしい!


「レナード。

 新たな武器をどうする?

 斬馬刀はかなり傷んでいるだろう?

 ドルイガとの戦闘中に折れたら終わりだぞ。

 全く同じ斬馬刀を作らせるか、それともどこか改良させるか?

 いっそ全く違う武器を作らせるか?」


「取りあえず全く同じモノを作らせてください。

 改良は大魔境の素材を見てから考えます。

 牙象の牙が、加工でどれくらい強度を増すか確かめた上で、総牙作りにするのか、刃金の部分だけ牙にするのか決めます」


「そうか。

 だが刃金の部分だけ牙にするのなら、牙虎の牙の方がいいのではないか?」


「しかし牙虎の牙は、帝王陛下と王子様達が望んでおられるのではありませんか?」


「今は危急の時だ。

 家臣に自慢して虚栄心を満たしたいだけの愚者のために、貴重な素材をお飾りになどできん。

 欲しいなら自分で大魔境に行って狩ってこいと一括してやる。

 構わんから作ってしまえ。

 余も牙虎を使って長剣を作らす」


 やれやれ。

 また宮廷は揉めるぞ。

 だが正直助かる。

 牙虎の斬馬刀が作れるのなら、ドルイガとの戦いに役立つ。

 いや、強度があるのなら、速度と間合いを重視して、長槍を作らせようか?

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