第46話王太子視点

 愚弟達と後見人達は、その下劣な性格のまま、侵攻した皇国領内で凌辱と虐殺と略奪を繰り返した。

 その証拠と証人は、帝王陛下と余の監軍によって集められ、言い訳の利かない状態となっていた。

 だがそんな証拠など不要だった。


 奇襲が成功して、広大な皇国領の一割を占領した時点で、勇猛果敢で常在戦場のミースロッド公爵家軍がなりふり構わず動いた。

 何と言っても開戦の原因が自家のドルイガなのだ。

 無理を押しても動かない訳にはいかなかったのだろう。


 ミースロッド公爵家軍が自領を出て、後見人達の諸侯軍を指揮する愚弟達を皆殺しにする間に、帝国直属の第四騎士団がミースロッド公爵領を強襲した。

 破壊と略奪に重点を置き、出来るだけ死傷者を出さずに、ミースロッド公爵家の生産力を低下させ、ミースロッド公爵家軍を自領に引き戻し、奔走させて疲れさせる策だった。


 それが見事に成功した。

 まず愚弟達と後見人達の大半がミースロッド公爵家軍に虐殺された。

 帝王陛下も余も、自分の手を汚さずに、敵対する一族を取り除く事ができた。

 

 次にミースロッド公爵家軍が自領に戻る前に、帝国直属の第四騎士団を鹵獲した武器や物資と共に帝国領に後退させ、厳重な要塞に籠城させた。

 もちろん周辺領民も収容して、人的物的資源を失わないようにした。


 だがそれだけではない。

 ミースロッド公爵家軍が撤退した皇国領に、満を持して帝国直属の精鋭第一騎士団を再侵攻させたのだ。

 今度は可能なら、侵攻した皇国領を併合する予定だ。

 だが撤退の可能性も考慮してある。

 ミースロッド公爵家軍が、再び自領を犠牲にしてでも迎撃に出陣するのなら、第一騎士団は臨機応変に帝国領に後退し、堅固な城に籠城して、ミースロッド公爵家軍を奔走させて疲れさせるのだ。


 だが撤退と再侵攻のタイミングがとても難しい。

 万が一移動中に捕捉されたら、無防備な状態で精強無比な人虎種獣人と戦わなければならないのだ。

 奪ったばかりで半ば破壊された使い勝手の悪い皇国の城であっても、勝手の分からない皇国領内で野戦するよりはマシなのだ。


 だからミースロッド公爵家軍はもちろん、皇国直属軍や皇国諸侯軍の位置を探る密偵は惜しまなかった、

 投入できる限りの密偵を送り込んだ。

 乗馬技術に優れた伝令も掻き集め、全貴族や全商人にも、所有する伝書鳩を使って協力するように命じた。

 当然だが、伝令用使い魔を操れる魔法使いは帝城に常駐させた。


「殿下!

 協力を誓いました!」


 よし!

 これで危機を脱したぞ!

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