第47話王太子視点

 獣人貴族達の懐柔に成功した。

 元々我が国の貴族だ。

 クリスチャンの馬鹿がブリーレに狂って獣人達の立場悪くしなかったら、彼らがミースロッド公爵家を頼る事もなかった。


 だからその時に敵対した余とレナードが許すと約束すれば、獣人貴族達は喜んでドルイガから離れるだろう。

 侵略した土地を与えると約束すれば、喜んで皇国に侵攻するだろう。

 それが余の策略だと理解していても。


 こんな状況になった以上、帝国獣人貴族達に行き場所などない。

 皇国に行っても、

「節操のない不忠者、裏切り者」

 と長年皇国に仕える貴族や騎士からは陰口を言われる。


 帝国に残ったとしても

「裏切たのに戻って来た恥知らずの卑怯者」

 と長年帝国に仕える貴族や騎士から面罵されるだろう。

 それを庇えるのは、二度の問題で矢面に立って損害を受けた余とレナードだけだ。


 余とレナードが許すといえば、少なくとも表立っては誰も非難出来ない。

 だがその為には、余とレナードが許すだけの手柄が必要だ。

 手柄がないと、長年忠勤を励んできた人種貴族が許さない。

 そして余もレナードも許すとは言えない。


「殿下。

 獣人貴族達は要求通りの日時に侵攻出来るでしょうか?」


「大丈夫だ。

 奴らも馬鹿じゃない。

 どれほど無理をしてでも日時を間に合わせないといけないと、十分理解している。

 帝国が皇国に侵攻した時点で、帝国に味方しても皇国に味方しても、最も危険な役目を押し付けられるのも理解していただろう。

 それに最初に帝国を裏切る可能性も考慮していた。

 どれほど愚かな当主に率いられていても、ドルイガが人象種貴族を皆殺しにした時点で、戦争準備をしているよ」


「確かに殿下の仰る通りです。

 愚かなことを申しました」


「構わんよ。

 少しでも疑念があると、全力をだして戦えなくなる。

 時間がある時は聞くがいい。

 だが実戦に入ったら、説明する時間はなくなる。

 そんな時間を使っていたら、勝てる戦いも勝てなくなる。

 余が何も言わずに命じたら、疑念を忘れて戦え。

 分かったか?」


「はい。

 仰る通りにいたします」


 古参の王太子親衛騎士を各騎士団の指揮官に送り出したから、側近の能力が落ちてしまっている。

 だがドルイガを確実に殺すためには、全て面で飛び抜けた騎士だけで側近を編成する余裕はなどない。


 余とレナードと連携を取り、ドルイガと戦える戦闘だけに突出した騎士。

 戦闘力や智謀は格段に落ちるが、身の回りの世話ができる従騎士。

 今はまだ未熟だが、将来性がある従騎士。

 それなりの能力はあるが、今のままでは部隊を任せられない騎士。

 そんな連中を鍛えながら、皇国と戦いドルイガを殺さねばならない。

 厳しい事だ。

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