第20話

「ブリーレの一件で苦境に立った獣人貴族家たちが動いたようだ。

 ミースロッド公爵家に泣きついて、帝王陛下に口添えして欲しいと言ったらしい」


 なんと恥知らずな事でしょう。

 今は比較的平和に交易しているとは言え、仮想敵国なのです。

 そんな皇国の有力大貴族に泣きつくと言う事は、大国に対する裏切り行為です。 

 一つ違えば、獣人貴族がこぞって皇国に寝返っていたところです。

 獣人貴族も生き残るためには、その覚悟もしていた事でしょう。

 よく逆にミースロッド公爵家が皇国に味方したモノです。

 でも実際は罠なのではないのでしょうか?


「ヴィヴィの疑問はもっともだ。

 ミースロッド公爵家離反は、皇国の仕掛けた罠と言う可能性もある。

 そこ事は帝王陛下も御考えになっている。

 それを払拭するためだろう。

 ミースロッド公爵公子のドルイガ殿は、番いを妻に迎えられるのなら、帝都で人質として暮らすと言っているそうだ」


 私の表情を読んで父が質問する前に答えてくれました。

 何と言う事でしょう!

 やはり番いの呪いとしか言いようがありません。

 誇り高い人虎族が、自ら人質となってでも番いを欲するのですね。

 それほど求められると言うのは、ある意味女冥利に尽きるのかもしれません。

 人を愛した事のない私には理解できない事です。

 あれほどレナードに愛されていても、何も感じる事ができないのですから。


「しかしおかしいのではありませんか、父上。

 番いを感じるには、その身にまとうフェロモンを感じなければいけないはずです。

 何故ドルイガ殿は帝国に番いがいると判断されたのです?

 嘘偽りではないのですか?」


 確かにデリラの言う通りです。

 皇国にいるドルイガ殿が、帝国にいる番いを知る事など不可能です。

 私が考えうる可能性としては、番いのフェロモンが付着した人がミースロッド公爵家を訪れたか、番いのフェロモンが付着したモノが持ち込まれたかです。

 番い本人がミースロッド公爵家に訪れていたとしたら、ドルイガ殿はその場で自分の妻にしたはずですから、それは有り得ない事です。

 それほど番いの呪いは激しいと、ブリーレの件で思い知りました。


「帝国の獣人貴族に泣きつかれたミースロッド公爵は、密かにドルイガ殿を帝都に送り込んだらしい。

 ミースロッド公爵シュウガ公は賢明な方だったようで、帝国と皇国の争いにしないように、獣人貴族に恩情をかけて欲しいと、内々で帝王陛下に頼む予定だったのだ。

 ところがだ、ドルイガ殿が帝都に入って、ブリーレ謀叛事件の詳細を知るために事件現場を巡っている間に、番いのフェロモンを感じ取ってしまったのだ」


 何と間の悪い事でしょう。

 賢明なシュウガ公と言えども、まさか御子息が他国で番いに出会うとは思いもよらなかったのですね。

 ですがやはり番いは呪いです。

 そのように賢明なシュウガ公を寝返りに走らせるほどの悪影響があるのです。

 いったいこれから何が起こってしまうのでしょうか。

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