第10話レナード視点

 困りました。

 いつになくヴィヴが鋭いです。

 俺の事を思ってくれて、色々考えてくれていると思うと、思わず表情が緩みそうになるが、絶対に本当の事を知られるわけにはいかないので、表情も心も引き締めないといけない!


 俺がヴィヴを愛するあまり、豚女と惰弱男の報復を防ぐためだけに、全てを捨てて戻ってきたなんて、絶対に知られるわけにはいかない。

 デリラは全部気がついているようで、俺を利用しようと手紙を送ってきた。

 まあ、デリラは重度のシスコンだから、ヴィヴに好意や悪意を持つ人間には敏感で、天才的な頭脳で全てを排除しようとする。


 俺にも敵意を持っているようだが、今は豚女と惰弱男の方が目障りなんだろう。

 まあ俺も、デリラが側にいてくれるから、任期も定かでない辺境伯の任務を、王太子殿下にヴィヴの事を頼むだけで受けたのだ。

 そうでなければ、王太子殿下がヴィヴの保護を約束してくれても、ヴィヴを残して帝都を離れることはなかっただろう。


 そのデリラの段取りで、毎日ヴィヴと登下校できる。

 側にいるだけで、理性が飛びそうになるほど魅力的な、ヴィヴの香りが鼻孔をくすぐる。

 馬車の中では、濃厚なヴィヴの香りで意識が飛びそうになるが、冷徹な目で監視するデリラが側にいるから、何とか理性を保てている。


 実際問題、ハント男爵家の護りは厳重だ。

 大商人上がりで莫大な富を持つハント男爵帝都屋敷の警護は、元から城砦並に厳重だが、特に今は臨戦態勢をとっている。

 屋敷を出る登下校は、高位魔法すら無効にする魔法対策をした重装甲馬車を使い、前後を護衛を満載した馬車が五台づつ警備する。

 まるで王族の警備で、一介の男爵家では有り得ない警備態勢だ。


 問題は学園内だ。

 学内平等が建前の学園内は、護衛を連れて入ることが許されない。

 王太子殿下ですら、側近や騎士を学園に入学させることで建前をクリアして、学園内に護衛入れているくらいだ。

 普通の男爵家ではこの条件をクリアする事は難しい。


 ハント男爵殿は貴族士族に好かれていない。

 だから貴族士族の子弟を護衛に雇う事ができない。

 できたとしても、下手をすれば盗人に宝物庫の見張りを依頼するのと同じになる。

 ヴィヴを誑かして、ハント男爵家の全財産を手に入れようと企む不心得者が、必ず出てくる。


 今までは、オースティン侯爵家の金看板が、不心得者を排除していた。

 だがこれからは無理だ。

 獣人の多くがヴィヴを逆恨みしている。

 王太子殿下を怨めない分、ヴィヴに対する逆恨みは深く大きいだろう。

 一部の大貴族も、これを好機とハント男爵家を狙って来るだろう。


 ヴィヴを護る

 地位も名誉もいらぬ。

 何としても護る。

 命を賭けて護る。


 さあ、悪意と罠に溢れる学園だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る