第9話

「どうして?

 なんで?

 レナードは大魔窟を警戒していたんじゃないの?!」


 びっくりしました。

 学園に登校しようと朝の準備をしていたら、レナードが現れたのです。

 大魔窟から魔獣が出てこないように、護りについているレナードがです。

 普通なら絶対にありえない事です。

 何か重大な変事でも起こったのでしょうか?!


「王太子殿下が暗殺される恐れがあると、デリラ嬢から手紙をもらってね。

 殿下や重臣方に嘆願して、殿下の護衛役に役目替えしてもらったんだよ」


 レナードは簡単に言うけれど、貴族としては大変な事です。

 今は大役を任され、辺境伯に任じられておられます。

 辺境伯と言えば、伯爵の上に列し、世襲侯爵と同格とされています。

 そのような地位を捨てて王太子殿下の御命を護ろうとするなんて、忠勇無双の勇者です。


「でもそんな事をしたら、辺境伯から降格されてしまうんじゃないの?」


「そんな事は些細な事だよ。

 一番大切なのは、王太子殿下の御命だ。

 それに殿下の御心遣いで、世襲子爵の位を頂いた。

 まあ、最低でも子爵の地位を頂かねば、常に殿下の側にはいられないからな」


 簡単に言うけれど、二階級降格です。

 貴族社会では、辺境伯と子爵では待遇があまりに違うのです。

 それを捨ててまで王太子殿下を御護りしようとする忠誠心は、貴族として見習わなければいけません。


「でも、それなら、こうしてここにいていいの?

 王太子殿下の側にいなくていいの?

 大丈夫なの?」


「ああ、それは大丈夫なんだ。

 殿下には元々の側近の方々がおられる。

 平時に王宮の中にまで入り込むと、その方々の顔を潰すからな」


 何かおかしいです。

 王宮内の護りが万全なら、レナードを呼び戻す必要などないはずです。

 名門大貴族の方々は、武で成り上がったレナードの事を、快く思っていないとも聞きます。

 名門大貴族の方々は、辺境伯の地位を一門に与えたいと思っているはずです。


「だったら、なんで辺境伯の役目を解いてまで呼び戻されたの。

 少しおかしくない?

 レナードを追い落とす陰謀じゃないの?」

 

「いや、そうではないのだ。

 俺が殿下に頼んで呼び戻してもらったのだ。

 俺が殿下を御護りするのは、学園に来られてからなのだ」


 それもおかしいです。

 王太子殿下は王宮での役目が多く、ほどんど学園には来られません。

 この前助けて頂けたのも、僥倖としか言えないのです。

 ほとんど来られない学園での警護など意味不明です。


「殿下は学園にほとんど来られないのよ。

 レナードは誰かに陥れられたのではなくて?

 今からでも殿下に御願いして、元の役目に戻してもらえないの?」

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