第11話

「おはよう。

 レナード。

 ヴィヴ」


 え?

 なんで?

 どうして?

 なにが起こったの?!

 なぜ王太子殿下が校門前で待っているの!


「おはようございます。

 王太子殿下」


 いけない!

 殿下に挨拶しなければ。


「おはようございます!

 王太子殿下?!」


 よかった!

 下位の貴族から上位の貴族に話しかけてはいけないと言う、貴族社会のルールがこれほど有難いと思ったのは初めて。

 逆だったら、茫然自失していて挨拶できなかったわ。


「待っていたよ。

 といっても、余が勝手に約束の時間より早く来たんだけどね」


「おやめください、殿下。

 このような事をされますと、臣が殿下を御待たせした事になります。

 それでなくても、多くの大貴族の方々に睨まれているのです」


 やはりそうなのですね。

 レナードはあまり急に出世したので、大貴族の方々に睨まれてるのですね。

 もしかしたら、王太子殿下の側近や護衛の方々からも疎まれ、白眼視されているのでしょうか?


 ようやく周りの方々の表情をゆっくり観察できるようになりました。

 学園の外で警備されている方々も、殿下と御一緒に学園内に入られている方々も、どうやらレナードに隔意はないようです。

 噂通り、殿下の側近や護衛になれるのは、共に肩を並べて戦った戦友だけと言うのは本当のようです。


 だったら尚更おかしいですね?

 さっきレナードが言った事と一致しません。

 ですがレナードが私に嘘をつくとは思えませんし?

 レナードが気にし過ぎているのかもしれません。


「ははははは。

 気にするな。

 今日だけだ。

 余もレナードが悪く言われるのは本意ではない。

 だが逆臣共の罠に嵌った時に、命懸けで護ってくれたのはレナードだ。

 背中を任せ、肩を並べて戦った戦友だ。

 それが大魔窟の見張りも全うし、学園に来ると言うのだ。

 今日くらい余がレナードを迎えて当然であろう」


 殿下のレナードへの信頼は別格のようです。

 満面の笑みを浮かべてレナードに近づくと、御自ら手を差し伸べて握手なされたばかりか、親愛の情を込めて抱擁されています!


「いえ。

 臣下として当然のことをしただけでございます。

 いや、本当に殿下。

 御止めください。

 むしろ困ると言っているではないですか!」


「ははははは。

 気にするな。

 今日だけだ。

 教室に行こうではないか。

 ヴィヴもついてまいれ」


「はい!」


 王太子殿下はレナードに会えて、本当にうれしいのでしょうね。

 レナードの肩を抱いて顔を輝かせておられます。 

 学園周辺を警備する方々を残して、学園内で護衛を務める方を周囲に侍らせて、私に後をついて来るように御命じになられ、先を歩いて行かれます。

 私にとっては、これ以上の安全はないですね。

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