第12話

「殿下。

 前に出ないでください!」


「心配するな。

 後ろにいて不意を突かれる方が危険だよ」


「馬鹿な事を申されますな。

 殿下が不意をつかれるはずがないでしょう」


 突然の襲撃でした。

 私は全く気がつきませんでした。

 ですが殿下とレナードは違います。

 護衛の方々も気がついておられたようです。

 さすが歴戦の方々です。


 レナードはさり気なく私を庇ってくれました。

 いつの間にか私は殿下の横に立っています。

 とても不遜な事だと思うのですが、殿下も護衛の方もなにも言われません。

 貴婦人を護るのが騎士の務めとは言え、一緒にいるのは王太子殿下です。

 私などより殿下を優先すべきだと思うのですが。


「たまには実際に戦わないと腕が鈍る。

 今日はいい機会だ。

 護衛の中には治癒術士と薬師もいる。

 毒を使われても大丈夫だ」


「先にそれを言われては、反対できないではありませんか。

 相変わらず賢いお方ですね。

 まあ、他の方々が護って下さっていますから、大丈夫だとは思いますが」


 軽口なのでしょうか?

 次々と襲い掛かる刺客を叩き斬りながら、平気で会話されておられます。

 もう三十人以上の刺客が中庭に倒れ伏しています。

 全て獣人のようです。


 恐ろしい身体能力で、私では斬られた後に地に転がって初めて分かるくらいです。

 狼獣人や虎獣人のような肉食獣人だけでなく、犀や象のような大型獣人もいます。

 みな一撃で斬り斃されています。

 レナードも王太子殿下も圧倒的戦闘力です。


 噂に聞くだけですが、肉食獣人の一撃は、騎士の剣すら叩き折るそうです。

 大型獣人の突進も、同じように騎士の剣を叩き折ると聞いています。

 その大型獣人が、金棒を持って襲い掛かって来たのです。

 ですがそれを一顧だにせず、一刀のもとに斬り伏せておられるのです。


 実際に眼で見た訳ではありません。

 この場に斃れ伏す獣人を見てそう想像しているだけです。

 ですが間違いはないでしょう。

 殿下とレナード以外は戦っていないのですから。


「レナード。

 これはやはり豚女の仕業だと思うか?」


「そう思いたい所ではございますが、断言はできません。

 この件を好機と捉え、刺客を送る者が他にもいるかもしれません」


 殿下がレナードと笑いながら恐ろしい会話をかわしておられます。

 未だ殿下を暗殺しようとする輩がいると言う事でしょう。

 殿下の弟君の何方かなのでしょうか?

 叔父君の何方かなんでしょうか?

 あまりに哀しい事でございます。


 ですが、これがブリーレの企みだったら、私の所為でございます。

 だとしたら、殿下に御詫びしなければいけません。

 自分に降りかかる火の粉は、自分で払わなければなりません!


 

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