第19話

「何事が起ったのですか?」


 父と私とデリラが、秘密の話をする為の沈黙の間の席について直ぐに、デリラが父に質問をしました。

 父と同じように情報を大切にするデリラにとって、自分が全く知らない情報で父に呼び出されるのが屈辱なのでしょう。

 いつも私に見せる蕩けるような笑顔ではなく、厳しく引き締まった表情です。

 人によっては冷たいと評するかもしれませんが、私には分かっています。

 その冷たく厳しい表情は、私達家族を護りたいと言う想いからの表情なのです。


「落ち着いて聞け。

 アリステラ皇国のミースロッド公爵家が、皇国を離反して帝国に味方した」


 とてつもなく衝撃な話に、私だけでなくデリラですら言葉が出ません。

 頭の中が真っ白になってしまいました。

 アリステラ皇国と言えば、帝国と大陸を二分する大国です。

 そんな皇国に所属するミースロッド公爵家は、戦国時代には独立した国でした。

 その領地は戦国時代を超え、戦国時代の数カ国分の広大なモノです。

 そんな有力大貴族を帰属を変えてしまったら、帝国と皇国の戦力バランスが一変してしまいます!


「だが問題はそんな事ではない。

 問題なのはミースロッド公爵家が仕える国を変えた理由だ」


 何かとても嫌な予感がします。

 クリスチャンとブリーレの一件があったばかりです。

 なんと言ってもミースロッド公爵家は人虎種の獣人種なのです。

 戦国乱世では、驚くべき身体能力と戦闘力で数々の伝説的合戦を繰り返しました。

 帝国と皇国の覇権戦争でも、帝国が数多くの獣人族を投入する事で有利に戦争を進めていたのを、圧倒的戦闘力で何度も戦局をひっくり返しました。

 当然皇国はミースロッド公爵家を優遇していたと聞いています。


「また番いだ。

 ミースロッド公爵家も番いの呪いに憑りつかれたようだ。

 我が帝国にミースロッド公爵公子の番がいるらしい。

 その番となる女性を公爵公子の妻に与えるのなら、皇国を裏切って帝国に恭順すると言ってきた」


 最悪です!

 また番いの呪いで国が乱れます。

 それも今回は一国に留まりません。

 ミースロッド公爵家の寝返りを皇国は許さないでしょう。

 何の報復もしなければ、境目に位置する多くの皇国貴族が、ミースロッド公爵家の後を追って皇国を離反するでしょう。


「しかしよく帝王陛下はそんな条件を認められましたね。

 ブリーレ反乱事件の直後ですよ。

 番いの呪いがどれほど狂気なのかはよく分かっているでしょうに。

 きっと地位や既婚も無視しますよ。

 番いの相手が王族の正室であろうと、寄こせと言ってきますよ」


 デリラの言う通りです。

 何かとんでもない裏があるのかもしれません!

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