第29話レナード視点

 爪撃が首を狙って来る。

 これを喰らったらネックガードは紙同然に切り裂かれ、首が跳ね飛ばされる。

 そんな事になったら、こいつはヴィヴィを攫って領地に帰るだろう。

 絶対のそんな事はさせん!

 ヴィヴィは俺の妻だ!

 そう思うと身体の奥底から力が湧いてきた!


 身体を捻って爪撃が届くのを少しでも遅らせつつ、同時に爪撃の勢いを利用して飛び威力を軽減させる。

 同時にむりやり左腕を、盾代わりに爪撃と身体の間に挟み込む。

 左腕一本を犠牲にして助かるのなら安いモノだ。

 だが左腕が使えないと瞬殺される。

 爪撃を受けた直後に回復をしなければならない。


 息は詰まっているだろうが、呪文を唱えなければならない。

 左腕は潰されるか切り飛ばされてしまっている状態で、右手で回復薬を使うとなると、斬馬刀を手放す事になる。

 斬馬刀なしでは、こいつ相手から生き残るのは不可能だ。

 こいつの再攻撃の前に、攻撃の衝撃から立ち直って、回復呪文を唱えられるか?

 迂闊だった!

 怒りに我を忘れてしまっていた。

 いつの戦いのように、回復薬を口に含んでおくのだった!


 だが後悔しても始まらない。

 やれるかやれないかではない。

 生きてもう一度ヴィヴィに会う為に、絶対にやるのだ!


 精一杯避けて飛んで逃げたのに、間に挟んだ左腕が血飛沫をあげて飛ぶ。

 単なる回復魔術ではなく、腕を完全再生させる完全回復呪文が必要だ。

 しかも、攻撃が重いから、息がつけず、呪文が唱えられない!

 しかも、追撃が早い!

 右手一本の斬馬刀では間に合わない……

 体裁きで避ける事もできない!

 斬馬刀を捨てて甦り薬を飲むか?

 殺された後で先に飲んでいた甦り薬が効いて、生き返る事ができるかもしれない。

 意識と無意識のはざまで、斬馬刀を手放して腰の薬箱に手がいく。


 敵が向き直った?

 追撃が来ない!

 敵が曲がった方天戟を手に離れていく。

 エゼキエルが助けに来てくれた!

 護衛の王太子親衛隊を後ろに置いて、ただ一人助けに来てくれた!

 我が莫逆の友よ。

 命を預けて背中を任せられる戦友よ!


 しかしエゼキエル一人では苦戦は免れない。

 いや、率直に言って勝てない!

 こんな所で、俺の為にエゼキエルを死なせるわけにはいかない!

 急いで完全回復の呪文を唱える。

 切り飛ばされた左腕を回収する時間がもったいない。

 再生された左腕が以前と同じように使えるか確認する意味もあり、左手で薬箱の完全回復薬を二つ取り出し口に含む。


 全ての動きを、エゼキエルと敵の戦いから視線を外さずに行う。

 残念ながらエゼキエルが押されている。

 聖騎士の使える支援魔法を全て使っているのに、それでも早さも力も敵の方がわずかに勝っている!

 だが俺とエゼキエルが共同すれば勝てる!

 二人一組の攻撃で敵を殺す!

 正々堂々なんて糞くらえだ!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る