第3章

第56話

 慎重な上にも慎重を期して、十日かけて十分な索敵と情報収集を行い、ようやく本領の本城に帰ることができました。

 集めた情報では、王太子殿下が王族を罠に嵌めたという事です。

 今まで極力一族を殺さないようにしていた王太子が、情け容赦なく弟達を罠に嵌めて殺されました。

 そこまでしなかればいけないほど、帝国が追い込まれているのでしょう。


 王太子殿下はドルイガの帝国侵入と人象種貴族の皆殺しを名分に、皇国に宣戦布告して侵攻していました。

 奇襲に近い侵攻は大成功し、皇国の二割の領土が帝国に占領されていました。

 ドルイガの行き過ぎによる開戦と劣勢は、ミースロッド公爵シュウガに責任を感じさせたのでしょう、ミースロッド公爵家の諸侯軍は八面六臂の活躍を見せました。


 ですが、王太子殿下が鍛え上げた元親衛騎士が指揮する部隊は、強盛なミースロッド公爵家諸侯軍の鋭鋒をいなして損害を抑え、占領地を確保したり、東奔西走させて疲労を蓄積させたりしました。

 正面から戦って勝てない場合だけでなく、勝てても損害が多くなると予想される場合は、戦わずに撤退を繰り返しています。


 そういう戦況もあって、ミースロッド公爵家諸侯軍の人的損耗は少なかったのですが、経済的な損害は大きかったのです。

 特に王太子殿下がミースロッド公爵領に度々奇襲を仕掛けられたので、兵糧の損害が大きいようです。

 

「御姉様。

 ドルイガ殿から連絡がありませんね。

 御姉様にだけ秘密の連絡があったりするのですか?」


 デリラが揶揄うように、でもわずかに探るように話しかけて来ます。

 私が家族に秘密を持つはずがないのに。

 本当に心配症ですね。

 何時もは沈着冷静なデリラですが、私の事が絡むと思いもよらない失敗をする事があります。

 私の事を思っての失敗ですから、うれしいのですが、少々おかしくもあります。


「心配しなくても何もありませんよ」


「ふむ。

 だがそれはそれで心配だな。

 番いのヴィヴィと全く接触をせずに一カ月過ごせるものだろうか?

 確かに自分の失態で皇国と公爵家にとんでもない損害を与えている。

 ヴィヴィに命令された事もあるだろう。

 だがヴィヴィの呪縛が限定的だとすれば、我が家の方針にもかかわってくる」


 父上の申される通りです。

 あまりに狂信的に迫られるのは恐怖を感じますが、番いの影響が少ないのも残念な気になります。

 洗脳というか、狂気に捕らわれるというか、あの時のクリスチャンのようになるのは絶対に嫌だと理性では思うのですが、どこか憧れる気持ちもあります。

 恋い焦がれて眠れなかったり、相手を想うだけで涙が流れたり、多くの令嬢が語るような気持ちになったことが無い私は、恋に憧れているのかもしれません。

 

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